竜の頸の珠

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竜の頸の珠

それから、またしばらくしてからのこと。 「お姫さま、大変でございます」 おばあさんが何やら血相を変えて飛び込んで来た。 「どうしたんです? 珍しくそんなに慌てて」 おばあさんは、息を切らせて、今にも倒れそうだ。 「とにかく、お座りください。お話はゆっくり  伺いますから」 私が、そう促すものの、おばあさんの興奮はちょっとやそっとじゃ治りそうにない。 「じゃが、大納言さまが……」 大納言さま? って、私が胡椒をお願いした、あの大納言さまのこと? 「大納言さまがどうなさったの?」 「大納言さまが、事もあろうに、お姫さまの  ことを『大盗人(おおぬすびと)』なんてひどい噂を  言いふらしてるんです!」 大盗人!? なんで? 私、ここから一歩も出てないのに、どうやってそんな悪さができるっていうの? 私が疑問に思っていると、おばあさんが仕入れてきた噂話を事細かに説明してくれた。  私がお願いした胡椒を竜の頸の珠だと誤解した大納言さまは、御家来たちに取りに行くようにお命じになったらしい。しかも、必要経費として、かなりの財産を与えて、手に入れるまで帰ってくるなって。 そんなの、帰ってくるわけないじゃない。 これ幸いと山分けして、探してるふりをするわよ。 だって、竜を捕まえるんでしょ? できっこないもの。 そんなことも分からないなんて、やっぱり下の者の気持ちが分からない指導者はダメね。  その間、大納言さまは、のほほんと待ってたのかと思いきや、なんと、私を正妻として迎えるべく、お屋敷をリフォームしてらっしゃったらしい。 バカじゃないの!? そんなの、仮に胡椒や竜の頸の珠を持ってきたって嫁になんか行くわけないじゃない。 私には、永遠の愛を誓った正輝さんがいるんだから。
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