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燕の子安貝
それから、またしばらくして、おばあさんが噂話を仕入れてきた。
「中納言さまが、大けがをなさったそうに
ございます」
「中納言さまが!?」
中納言さまには、私、何もお願いしてないわよね
なんだか、気付いたらお帰りになられてたけど。
「かぐや姫が、燕の子安貝を望まれたとの
ことではありませんか?」
はぁ!?
そんなもの、望んだ覚えはないけど。
「何でも、中納言さまが、お姫さまに
望むものを伺ったところ、燕の巣から
子安貝を取ってこいと仰せられたと
聞きましたが……」
いやいや、そんなこと言ってないし。
ん?
貝を食べたいって呟いたような気もするなぁ。
でも、何で貝が燕の巣にあると思ったの?
「そもそも、貝が燕の巣にあるわけ
ないでしょ?
何でそんな所に貝を取りに行ったの?」
「それは、お姫さまが伝説の燕の子安貝を
望まれたからじゃろ?」
だから、そんなもの望んでないし。
原因はよく分からないながらも、おばあさんの話を聞いて総合してみると、こんな感じらしい。
燕の子安貝を手に入れようとした中納言さまは、お付きの方に、燕が巣を掛けたら知らせるようにと命じたんだそうだ。なんでも、燕の子安貝というのは、燕が卵を産む時に出てくるらしい。
すると、炊屋の軒下に燕が巣を掛けたので、20人ほどに見張りをさせたらしい。ところが、大の大人が20人も足場を組んで巣の目の前で見張ってるから、燕が帰ってこなくなっちゃったんだって。
当たり前だよね。
何考えてるんだか。
だから今度は、人が乗れるくらい大きな籠を巣の前に吊るしておいて、燕が卵を産みそうになったら、一斉に縄を引いて巣の目の前に上げて、その巣から子安貝を取り出す作戦にしたそうだ。
そうして、昼夜問わず見張った結果、ようやく生まれそうな気配がし始めた。そこで、家来を籠に乗せて上げてみるが、見つからない。痺れを切らした中納言さまは、自ら籠に乗り込み、家来に縄を引かせて燕の巣を覗いたらしい。
ちょうど、燕が落ち着きなくグルグルと回り、卵を産みそうだったので、中納言さまは、巣に手を入れて子安貝を探した。そうして、何かを掴んだ中納言さまは、
「子安貝を手に入れたぞ!
早く下ろせ!」
と命じたので、家来は縄を一斉に緩める。当然、籠は一気に下まで落ち、中納言さまは大けがを負ってしまわれたんだそうだ。
そんなことって……
早くって言われても、手を離しちゃいけないことくらい、大人なら分かるでしょ。
しかも、その手に入れた子安貝は、よく見ると子安貝ではなく、ただの干からびた燕の糞だったというから目も当てられない。
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