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あまりにも気の毒なので、私は代筆をお願いして手紙を書くことにした。
「お久しぶりです。
お加減はいかがですか?
探し物が見つからなかったとのこと、
残念でございました。
1日も早くご回復なさいますよう、
お見舞い申し上げます」
それをいい感じの和歌にして届けてくれるという。
この時代には、西洋医学はない。東洋医学すら、あやしい。民間に伝承で伝わる薬草の知識などを活用するしかない。
高所から落ちたのなら、骨折してるかもしれない。頭とか打ってないといいのだけれど。
それからしばらくして、訃報が届いた。中納言さまが亡くなられたそうだ。そして、訃報と共に、私への返歌が届けられた。
『かひはかく ありけるものを わびはてて
死ぬる命を すくひやはせぬ』
あなたは貝も見つからないとおっしゃいましたが、こうしてお見舞いをいただいたんですから、がんばった甲斐はありました。この“匙(かい)”で、苦しみぬいて死ぬ私の命をすくい取ってはいただけませんか。
なんで、こんなことに……
もうやめる。
私がちゃんと断れずにいたから、こんなことになったんだもん。
勝手に勘違いしたなんて言い訳はしない。
これからは、誰が来てもちゃんと断る。
だって、もう二度と会えないとしても、私が好きなのは正輝さんだけなんだから。
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