蓬莱の玉の枝

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蓬莱の玉の枝

 その後、しばらくして、今度は藤原 不比等(ふじわらのふひと)さまがいらっしゃった。 もう、この間のように私のせいで犠牲になる人を出してはいけない。 私は、はっきりきっぱりと断るつもりで、御簾越しに向かい合う。 「姫、見つけて参りました。  蓬莱の玉の枝でございます」  不比等さまが差し出したのは、大振りの光り輝く枝。 金でできた幹に白い真珠の実がついている。 根は、銀でできている。 それはそれは、見事な細工だ。 ……絶対、作り物だけど。 でも…… 「ごめんなさい。  私が欲しかったのは、これではありません」 私は見えないと分かりつつも頭を下げる。 「いえ、しかし、姫のおっしゃるように、  金の木に白い高価な実がついています。  銀の根も張っています」 何をどうすると、こんな風に勘違いできるの? 「私が申し上げたのは、(そう)(こと)です。  中国……ではなくて、(とう)の国の  楽器です。  大和の(こと)に似てはいますが、弦を支える  ()が違います。  象牙と呼ばれる、南の方にいるとても大きな  生き物の牙を削って作った物を使って  います。  弦の数も13本です。  しかし、それももういりません。  はっきり申し上げなかった私が悪いんです。  私は、どなたとも夫婦(めおと)になるつもりは  ございません。  どうぞ、お引き取りください」 私は、今度こそきっぱりと断る。 「なぜですか?  私は、姫を心から慕っております。  どうか、お考え直しを」 不比等さまのお気持ちは嬉しい。 でも、私が好きなのは、正輝さんだけなんだもん。 ごめんなさいとしか、言いようがない。 「誰とも夫婦にならないとはどういうことで  ございますか?  どなたか決まった方がいらっしゃると  いうことでしょうか?」 決まった人がいると言ってしまえたら、どんなに楽だろう。 「……実は、思う方がおります。  私は、その方以外の方と夫婦になるつもりは  ないのです。  申し訳ございません」 言っちゃった。 でも、本当のことだもん。仕方ないよね。
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