天皇

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「お姫さま! お姫さま!  大変でございます!  お、大王(おおきみ)さまのお遣いの方が……」 おばあさんが駆け込んでくる。 「おばあさん、落ち着いて。  どうなさったの?」 私は、おばあさんを落ち着かせようとなだめる。 「落ち着いてなどおれませぬ。  お、大王(おおきみ)さまのお遣いがおいでなんで  ございますよ!?」 は!? 「なんで!?」 大王なんて、雲の上の存在なんじゃないの? 「なんでも、お姫さまの評判をお聞きになり、  内侍(ないし)さまをお遣わしになった  ようでございます」 それって…… 「大王のところへ来いってお話!?」 そんなの困る。 絶対に困る。 日本で1番偉い人だよ!? 断れないかもしれないじゃない。 「おばあさん、ごめんなさい。  私、お遣いの方にはお会いできません。  そう伝えてください」 私は、おばあさんが何度説得しようとも、「うん」とは言わなかった。 だって、私は正輝さん以外とは、絶対に結婚しないもん。 正輝さんと永遠の愛を誓ったのに、なんで見たこともないおじさんと結婚しなきゃいけないのよ。  諦めたおばあさんは、お遣いの方のところへ断りに言ってくれた。  けれど、おばあさんはなかなか戻ってこない。  小半刻(こはんとき)ほどして、ようやく戻ってきたおばあさんは、疲れ果てたように言った。 「内侍(ないし)さまは、それはそれは熱心に  会いたいと仰せじゃったよ。  まぁ、大王から言いつかってお出で  なんじゃし、会えませなんだでは  済まされんのかもしれんの」 そう……かもしれないけど。 だからこそ、絶対に会えないよ。 そりゃ、私なんてみんな御簾越しだから、あらぬ妄想を膨らませてあれこれ言って来てるだけなのは分かるけどさ。 でも、万が一、会ってぜひ、天皇陛下のおそばになんて言われちゃったら、絶対困るもん。 だから、絶対に会わない。
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