天皇

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 ところが、今度はその3日後におじいさんが呼び出された。朝廷に! 緊張しながら出かけたおじいさんだったけど、夕方には、ご機嫌で帰宅した。 「お姫さま、天皇さまからの勅命じゃ。  宮仕えしてもらえんじゃろか?」 やっぱり…… 「嫌です。それだけは、どうしても嫌」 私は正輝さんの妻なんだから。 絶対、正輝さんとじゃなきゃ、いや! 「そう言わんと、試しにちょっと行ってみる  だけでも」 いやいや。 ちょっと行ってみて、何かあったらどうするの!? 天皇だよ? 万が一、変な気を起こしても、誰も止められないでしょ!? そんなの困る。 「それだけは、絶対に嫌です」 私は断るけれど、おじいさんも今回はなぜかしつこい。 「じゃが、天皇さまがどうしてもとおっしゃる  ことじゃし」 おじいさんは、今日覚えたばかりだと思われる「天皇」という言葉を連呼する。 「おじいさん、どうなさったのですか?  昨日まで、そのようにどうしてもとは  おっしゃいませんでしたよね?」 途端におじいさんは黙ってしまった。 「すまない。  天皇さまがかぐや姫に宮仕えをさせれば、  五位の位をくださると仰せじゃったのでな、  つい……」 そういうことかぁ。 でも、私は正輝さん以外の人に嫁ぐつもりは全然ない。 「おじいさん、ごめんなさい。  私は、どうしても宮中でお仕えするのは  無理なんです。  嫌な役をさせて申し訳ありませんが、  お断りいただけませんか」 「しかし……」 おじいさんは、口ごもる。 まぁ、天皇陛下にお断りしづらいのは、分からなくもない。 それでも…… 「私は、死んでも宮仕えは致しません。  そのようにお伝えください」 「死んでもとは……  わしらにはお姫さまが何より大切なんじゃ。  お姫さまを亡くすくらいなら……」 おじいさんはようやく、私の意思が固いことを理解してくれた。 「では、明日にでも参内(さんだい)してそのように  申し上げて来ようかの」 そう言って、おじいさんは翌日、また朝廷へと出向き、私に宮仕えの意思がないことを伝えてくれた。
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