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妙に高そうな服。
しかも1人?
いつもなら、おじいさんかおばあさんが案内してくるのに。
不穏な空気を感じた私は、慌てて背を向け、顔を隠した。
逃げなきゃ!
私はそのまま立とうとしたけれど、男性に袖を掴まれてしまった。
「この眩いばかりの光。
そなたがかぐや姫だな?」
眩いのは直射日光を浴びたドレスで、私じゃないし。
っていうか、この人、まさか、天皇陛下なんじゃ……
狩りって言ってたのに、なんでうちに……
怖い。
正輝さん、助けて!!
私は、その場に固まってしまった。
「さぁ、私と一緒に参ろう」
やだ! やだ、やだ、やだ!
私は、心を落ち着けようと、ひとつ深呼吸をする。
「……申し訳ありません。
私は、この国の者ではないのです。
ですから、どなたのもとにも参れません」
私は消え入るような声でそう言うけれど……
「そのようなこと、気にするとでも思ったか。
さ、参られよ」
気にしてよ!
私は正輝さん以外の人のところへは行かないって決めてるの!!
そう思ってはいるものの、向こうから庭の砂利を踏み締める音が聞こえたかと思うと、輿を担いだ人たちが入ってくる。
あれに乗せられたら、終わりだ。
そのまま御所に連れて行かれてしまう。
私は、意を決して立ち上がる。
彼は、私が輿に乗ろうとしてると思ったのか、その手を緩めた。
私はその隙に、するりと逃げ出した。
ドレスは着ていても、ハイヒールを履いてるわけじゃない。
私はスカートを両手で抱えて邸内を駆け抜けると、納戸に閉じこもった。
伊達に砂浜を駆け回って育ったわけじゃない。駆けっこは昔から速かった。
おとなしい姫だと思ったら大間違いよ。
すると、どこかから声が聞こえる。
「すまない。
無理やり連れて行こうとした私が悪かった。
もう、そのようなことはしないから、せめて
もう一度、顔を見せてくれないか」
ほんとに?
出た瞬間に捕まえる気じゃないの?
私は信じられなくて、そのまま納戸で息を殺す。
「本当に、何もしない。
八百万の神々に誓おう。
だから、私にその姿を見せてくれないか」
これは、私が出ていくまで帰らないパターン?
それはそれで困るんだけど。
私は、渋々、納戸から外に出ると、元の部屋に戻り、彼に背を向けて座った。
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