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そんな私を見たおじいさんは、私が月を見ることを禁じた。
「どうしてですか?
月くらい見ても良いではありませんか?」
「心配なんじゃよ。
どうして、毎日、そんな憂い顔で月を
眺めとるんじゃ」
どうしてって……
もう、私の中で限界を迎えていた。
「おじいさん……
きっと、信じられないと思いますが、実は、
私は、この世界の人間ではないんです」
「はて? なんじゃと?」
「私は、ここから、どうやっても辿り着けない
遠くの世界から来たんです。
おじいさんたちには、本当に良くして
いただいて、感謝の言葉もありません。
ですが、向こうには残してきたものも多く、
帰りたいのに帰れなくて……」
正輝さんに会いたい。
正輝さんのところへ帰りたい。
また、ひとしずくの涙が頬を滑り落ちる。
「お姫さまは、ずっとここにおったらええ。
わしらお姫さまのためなら、何でもするで」
そういうおじいさんの隣で、おばあさんが背中をさすってくれる。
本当に、おじいさんとおばあさんがいてくれて良かった。
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