馴れ初め

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「良かった。  じゃあ、これから末永くよろしく。  2人で幸せになろう」 「……はい」  そんな私たちの幸せを、水平編の上に昇ったばかりの満月が、微笑むようにあたたかく見守っていた。  私たちは、そのまま木船のへりに腰を下ろす。 木船は、意外に大きい。へりまで届かない私を、内藤さまが脇に手を入れ、抱き上げて座らせてくれた。 「これからは、明音って呼んでもいい?」 内藤さまの言葉に私はこくんと頷く。 「明音も内藤さまはやめよう。  正輝(まさき)って呼んで」 えっ…… それはハードルが高い。 「えっと…… あの……  まさ…き…さん?」 「くくくっ  さんはいらない。  夫婦になるんだから、呼び捨てでいいよ」 えぇ〜!? そんなこと言われても…… 「それはっ!  すぐには……無理…です」 正輝さんは、私の頭にそっと手を置いた。 「ははっ  そうか。  じゃあ、追い追い……な?」 「はい」 でも、いいのかな…… 私、こんな素敵な人の奥さんになっても…… 私なんて、成人したとは言え、彼から見たら、まだまだ子供だと思うし…… 「明音、明日の予定は?」 「えっ? 特にありませんけど……」 「じゃあ、デートしよう」 「えぇっ!?」 で、デート!? 私が返事もできずにいると、 「そ、初デート!  でも、その前に、ご両親にご挨拶だな」 と正輝さんは軽く飛び降り、私の脇に手を入れて船のへりから下ろしてくれた。 でも、いいのかな? お父さん、なんて言うだろう? 私の心配をよそに、正輝さんは何のためらいもなく私の手を引いて歩いていく。 この時間なら、父は旅館の方にいるはず。 私は普段通らない旅館の方の玄関から中に入る。 正輝さんはフロントで、私の両親に彼の部屋に来てもらえるようにと伝言をお願いをすると、私たちは、2人で正輝さんの部屋へと向かった。
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