馴れ初め

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 この部屋の入り口は日本家屋の玄関風の造りになっている。 正輝さんが襖を開け、三和土(たたき)に下りて千本格子の引き戸を開けると、父母の姿があった。  父母は深々と一礼をし、父が口を開く。 「お呼びと伺いました。当方に何か不手際でも  ございましたでしょうか」 「いえ、お呼び立てして申し訳ありません。  お願いがあったものですから。  どうぞ、お入りください」 正輝さんに招かれ、その奥に私の姿を認めると、父も母も驚いたように目を丸くした。 「明音、どうして……」 着物姿の母は、言葉を失った。 「私から説明させていただきます」 正輝さんは、2人に上座を進めるが、両親はそれを断り、下座に向かった。 仕方なく、正輝さんが床の間を背に座り、私はその隣に腰を下ろす。 それを見て、両親はようやくその向かいに腰を下ろした。 「実は、私はずっと何年も明音さんに好意を  抱いておりました。先程、ようやくその旨を  明音さんに伝えたところ、明音さんも  受け入れてくださり、お付き合いをさせて  いただくことになりましたので、ご挨拶を  と思いまして、お忙しいのは重々承知して  おりましたが、お呼び立てをしてしまい  ました。どうか、明音さんとお付き合いする  ことをお許しいただけますでしょうか?」 恥ずかしい…… 今まで家に男の子を一度も連れてきたことないのに、初めて紹介する人がこんなしっかりした大人の男性だなんて…… 私は、両親と目を合わせられなくて、座卓の木目をじっと見つめていた。 「それは……  明音、どうなんだ?  お前、本当に内藤さまとお付き合い  する気か? 内藤さまはお客さまだぞ!?  お前なんかがお相手できるような方でない  ことくらい分かるだろ」 父の言うことはもっともだし、よく分かる。 だけど…… 私が答えられなくて困っていると、正輝さんが説得をしてくれる。 「これは、私が望んで、明音さんに受け入れて  いただいたんです。どうか、お許しいただけ  ませんでしょうか」 なんて頼りがいのある人なんだろう。 「いえ、その、ですが、内藤さまには、立場と  いうものもお有りでしょうし……」 「そうですね。  それを(かんが)みても、明音さんほど素敵な  お嬢さんはいらっしゃらないと考えてます。  清楚で気品ある(たたず)まい、丁寧な  言葉遣い、素直な人柄、どれをとっても  素晴らしい女性だと思います」 ええ!? ほめすぎだよ。 こんなにほめられたら、恥ずかしくて居心地が悪くなっちゃう。 「それは、内藤さまが、明音のいいところしか  ご覧になってらっしゃらないからです。  明音は、こういう環境で育ちましたから、  外面だけはいいんです。  ですが、実際は、頑固でわがままな娘なん  です。あとで、きっと後悔なさいます」 ちょ、ちょっと、お父さん! そこまでひどく言わなくても良くない?  
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