馴れ初め

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「くくっ  あ、失礼。  楢崎さんも、父親なんだと思うと、急に  おかしくなってしまって……  頑固だというのは、しっかりした意志を  持ってるということです。  私の周りには、良からぬことを持ちかける  者もいないとは申せません。そんな中で、  しっかりと自分の意見を持って判断できると  いうのは、大切なことです。  わがままなのは、天真爛漫に育ったという  ことでしょう。私は、明音さんのどんな  わがままも叶えてあげたいと思ってます。  手始めに、彼女の大学の学費を出させて  いただきたいのですが、お許しいただけ  ますか?」 正輝さんの申し出に、父は私をジロリと見た。 「明音、お前……」 「あ、違いますよ。  明音さんが散歩中に言った独り言をたまたま  私が聞いてしまったんです。  幸い、私には、明音さんの希望を  叶えられるだけの蓄えはあります。  どうか、私に出させていただけませんか?」 あくまで、正輝さんは低姿勢だ。同じことをしても、初めから札束をちらつかせるような人だったら、お父さんはもちろん、私だって正輝さんに付いて行こうとは思えなかっただろう。 「しかし、そこまでしていただくのは……」 父の目が少し迷い始めている色をしている。 「いえ、実は、もう一つお願いがあるんです」 正輝さんが、一種、隣の私を見つめる。 「私は、明音さんと結婚したいと思ってます」 「…………は?」 父がなんだか、まぬけな声を上げた。 「もちろん、お付き合いをしてみて、違うと  思えば断っていただいて構いません。  しかし、私のことを明音さんが少しでも  好いてくださるなら、私は一生かけて  明音さんを幸せにしたいと思います」 そんなことを言われて、嬉しくないわけがない。 父も、それ以上の反論は出来ず、私たちの結婚は了承されたようなものだった。  それから先は、すごく早かった。 正輝さんは、1週間後には、懇意にしてるという超一流ホテルを抑えた。3ヶ月後の6月末に結婚式をするという。 そんなに急に!? 若くして会社を大きくした人なだけあって、決断力と行動力が半端ない。 週末ごとのデートは、ほとんど結婚式の準備と計画で終わった。 それでも、私は、会うたびに正輝さんに惹かれていった。 一緒にいることが嬉しくて、幸せだと思えた。  仕事で忙しいはずの正輝さんだけど、ちゃんと私との時間をとってくれて、衣装だって一緒に選んでくれた。  真っ白なドレスは、Aラインの優しい雰囲気。  そうそうたる面々が披露宴には出席されるから、もう少し華やかな方がいいんじゃないかと母は言ったけれど、正輝さんは、そんなの気にしなくていいって言ってくれた。「ごちゃごちゃ飾り立てて、派手に広がったスカートより、こっちの方が明音の良さが伝わる」って。
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