帰郷

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「ここから、楢崎さんの旅館まで片道7,000円  くらい掛かるんです。往復で14,000円。  単純に1年間で週末が50回あるとすると、  2年で100回往復することになります。  費用はざっと百四十万円です。  入学金の2〜30万くらい安いものです」 すごい。 一瞬でそんな計算出来ちゃうの!?  だから私は、ずっと正輝さんと一緒にいられることになった。その代わり、ひと月後の編入試験に向けて、私は久しぶりに受験勉強の毎日だ。  この辺りも、1年半前の地震で大きな被害が出たらしい。それでも、ようやく復興の兆しが見えてきて、街が活気付いてきた。  幸い、免震装置の付いた正輝さんのマンションは被害らしい被害もなく、正輝さんの会社も、大きな被害はなかった。むしろ、復興需要で大忙しらしい。  私の実家の旅館も、海沿いなので津波の被害など心配したけれど、景観を大きく邪魔していたあの護岸が被害から守ってくれたそうだ。  観光業としては、あの護岸は邪魔だと思うこともあったけれど、やっぱり必要だったんだなぁと思う。  2月。 私は無事編入試験に合格した。 だから私は、春まで専業主婦をしながら、調べ物をする。 あの時代の人々があの後、どんな人生を歩んだのか。  驚くことはたくさんあった。中でも特に驚いたのは3つ。  1つ目は、私のために燕の巣から落ちて亡くなったと聞いていた中納言さんが実は、77歳まで生きてたこと。 私は、あんなに自分を責めて苦しんだのに、同情を買うための嘘だったなんて、ありえない。  2つ目は、あの日、御所を抜け出してまで私に会いに来てくれた大王には、ちゃんと正妻がいた上に、その奥さんはその次の持統天皇だったこと。 それって、めっちゃ強い奥さんじゃない? もし、あのまま御所に連れて帰られてたら、大変な思いをしてたかもしれない。 ちゃんと断って良かったぁ。 あの時の地震で、帰って来れて本当に良かった。  3つ目は、その大王には、私より大きな息子がいたこと。長男の高市皇子はあの時30歳。皇太子だった草壁皇子は、22歳。 そんなんで、よくこんな小娘を口説けたわよね。 笑っちゃうわ。  でも、あの地震で私の知る人で亡くなった人はいない。被害にあった人もきっといるんだろうけど、それでも、知り合いに被害がなかったことに、少しほっとした。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「明音、愛してるよ」 大好きな正輝さんが、今日も優しく囁く。 「私も愛してる」 私は正輝さんの首に腕を伸ばし、愛を伝える。 私たちは今日も一緒に甘い夢を見る。 正輝さん…… 私はこの先、大学に復学するし、卒業すれば仕事もする。 だけど、私は心は、いつも愛するあなたのもとへ帰りたいと思い続けるわ。 ─── fin. ─── ここまでお付き合いいただきありがとうございました。 レビュー・感想 ページコメント 楽しみにしてます。 お気軽に一言呟いてくださいね。
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