〈第1部〉第1話

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〈第1部〉第1話

4月。 数日前の雨で僅かに残っていた桜も全て散ってしまい、少し寂しさが漂う新学期。大学2年になった俺は、大きなアクビをしながら少し長めのアッシュグレーの髪をガシガシと掻き上げる。時が経つのは早いもので、希望の大学に合格し、ひとり暮らしを始めてから気づけばあっという間に1年が経っていた。 大学1年の夏休み、スタッフ募集の記事を見て料理好きな自分にはぴったりだと思い即電話したファミレスのキッチンのバイトも、今では後輩の指導を任されるまでになり、連日サービス残業が続いていた。人に頼られるのは嬉しいと思ってしまう性分なので別にそれが苦ではないのだが、最近本業である学業が疎かになっていると感じていて、正直もう少し休みが欲しいところだ。…が、残念ながら本日もこのあとバイトである。 俺が通うのは、関西ではそこそこ有名な私立大学だ。農学部というだけあって至るところにたくさんの種類の木々が植えられ、今日も所々に置かれているベンチには友人と会話をしたり読書をしたり、思いのままに過ごす学生の姿が多くみられる。
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