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放課後学校近くのベンチに腰を下ろしていると先輩が近づいてくるのが見えた。
沢山食べる印象なのに先輩は相変わらずほっそりしている。食べたものはいったいどこに消えているのか。
先輩にそれとなく聞いてみた。
相当太りにくい体質だという事だった。体重はもちろん気にした事がないらしい。
うらやましがられるかと聞いたら先輩はそうでもないと答えた。
もしいわれてもうれしくないらしい。
「私は太っている体にあこがれがあるんだ」
唐突に言ったので僕は笑ってしまいそうになった。
にらまれて止めた。冗談を言ったわけではなかったらしかった。
色々試してみたがダメだったという話を聞かされた。
太ると世界が変わるという話を僕は思い出し、先輩に伝えた。
先輩の顔が明るくなった。
「やはりそうなのか」
試してみます?
先輩はもちろんうんとうなずく。
僕は先輩の期待に応えたいと思った。
心当たりがあった。
数日後通販で取り寄せた食品が届いた。普通の食品ではない。東欧のある研究所で開発されたもので、見た目はただのチョコレートバーにしか見えない。スポーツ選手の体重維持に使われる。量を間違えるとマラソン選手ですらぶくぶくになってしまうという。
放課後いつも通り何となく先輩と合流した。
太ってる体にあこがれがあるって話、本当ですよね?
先輩はうなずいた。
「本当だ」
今日は良いものを持ってきました。
カバンからパッケージに入ったチョコレートバーを取り出した。
食べれば太れること。それほど高価でないことを伝えた。
パッケージはずいぶんしっかりしていた。震える手でやっと開けた。計算はすませてある。全体の十分の一ぐらいの量を渡した。これで先輩は20キロから30キロは太るはずだった
ため息をつきたくなるような気分だった。残りは持って帰って廃棄しよう。カバンを開けたときにチョコレートバーの残りがなくなっている事に気がついた。
顔を上げる。
先輩はウインクしながら言った。もぐもぐと口を動かしていた。
「ごめん。全部食べた」
言葉が出なかった。めまいがした。全身が震えた。
大変な事が起こった。これは普通の食品ではないのだ。消化吸収を極限まで高める軍事技術が使われている。それを予定していた量の10倍。50キロじゃすまない。どうなるのか見当もつかなかった。
気がつくと先輩の顔がすぐ近くにあった。僕を見ていたずらっぽく笑った。
僕は必死に笑おうとしたがダメだった。口の周りについたチョコが目に入ってどうしても笑えない。
「相変わらず変な顔をしている」
そんなの泣きそうなんだから当たり前だ。
先輩はこれから大きく変わってしまう。特に外見は大きく変わるだろう。
先輩がどう変わろうが僕の気持ちに変わりはない。
でも今みたいな顔で笑う先輩はこれで最後かもしれない。だから目に焼き付けて忘れないようにしたい。
「おまえ今日おかしいぞ」
先輩は僕の顔を見てふいてしまい、面白がって両腕で僕の頭を抱き寄せる。
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