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4. 柿本大輔
道端で揉めるのは嫌なので、メンヘラ男を近くのコーヒショップに誘う。
メンヘラ男は黙っていたが、コーヒーを一口飲むと落ち着いたらしく話出した。
「と、突然すみません…。僕、柿本大輔と申します」
俺も本名を伝え、早速、深雪との関係を尋ねる。
「あの…、僕、サブスクを通して深雪ちゃんに会ったんです。大人しい子で何も話をしなかったんですが、深雪ちゃんといると凄く落ち着いたんです」
柿本は片手で頭や体を掻きながら話す。肌ストレスがひどいな。
「ほう…。柿本さんは深雪を気に入っているんですね?」
「あ、嫌っ!その、自分でもよくわからないんです。会話もロクにしてないし、ただ黙ってお互い座ってただけなのに…。別れた後、深雪ちゃんの姿が頭から離れなくって。最近、よく眠れなく…。こんな気持ちは初めてで」
柿本は今度は両手を使い体を掻く。俺まで痒くなりそうだ。
そんな柿本を見ていると、最近テレビで何をやってもダメな芸人を思い出した。
何でこんな奴がテレビに出れるんだ?と腹立たしかったが理由がわかった。
ダメすぎて目が離せない…。
背が低く小太りでブサイク…タチの悪い大人ニキビは腸が汚いのではと思わせる。
コンサル業や大企業の企画ではいないタイプだ。
実際接触したら面白い人材なんだな。
人間の心は醜い…。優越感に浸りたい視聴者が多いのか。なるほど…。
「あの…柳さん、僕の話聞いていますか…?」
……全く聞いてなかった。
深雪からケモ耳の需要を教えてもらい、ダメ芸人が需要のある理由を知って、今日は学びが多い1日だ…とシミジミしていた。
「うん。聞いているよ。多分だけど、柿本くんは恋しているんじゃないかな?」
どうせこんなとこだろ、と見切り発車をする。
「こ、恋…!!え、まさか……!!」
柿本は昔のギャグ漫画みたいな反応をする。
そんなにオーバーリアクションだと目の前のグラスの水を溢すぞ。
それもちょっと見てみたい気もするが…。
「恋だよ。深雪ちゃんに一目惚れしたんだよ」
「一目惚れ……深雪ちゃん、お世辞にも可愛いとは言えないかと…」
おい!お前が言うな。自分の顔を見てみろ…。
「笑った時の表情とか可愛いじゃん」
「僕、深雪ちゃんが笑ったの見た事ないです…。3時間会話もなかったので…」と言って柿本は深くため息をつく。
これは…深雪に同情する。
メンヘラ臭がプンプンする男と3時間も無言で向かい合うのは辛かったろう。
今日、俺に感謝していたのは本音だったのか…。
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