4. 柿本大輔

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「深雪にサブスクで会ったのは、その一度きり?」 「はい。指名制もないし…。同じ時間や場所を指定しても違う子が来るんです」  俺も小春ちゃんにもう一度会いたいと思ったので、気持ちはわからなくもないが…。  指名制がないのはストーカー被害を防ぐためか…。  何度も会うと欲が出るからな…。肉体関係を迫られるかも。 「今日、俺たちに会ったのは偶然?」 「え…!は、はい!」柿本は突如、挙動不審になる。  これはアウトー!…だ。  このまま三軒茶屋駅前交番に連れて行きたいが…物的証拠がない。  そもそも柿本は何がしたいんだ?  深雪ではなく、俺に話しかけた理由は? 「俺に何かできる事はある?」柔らかい口調で聞いてみる。 「え、あの…。そこまで考えてなくて、今日はつい…」  刹那(せつな)的行動…。2回目のアウトー!こいつは犯罪者予備軍だ。 「深雪にもう一度会いたいなら、別の方法を考えないと…」 「どんな方法が!?」柿本は目を輝かせながら俺を見る。  ……すまん。何も思いつかない。  例え何をやっても今の柿本ならアウトだ。 「リアルで繋がれるきっかけを探すんだ。同じ趣味とか…。柿本さんってどんな仕事をしているの?」  時間を稼ぐために質問をする。 「え、仕事ですか…」  しまった。この時間にフラつけるなら無職の可能性が高い。 「ああ、言いたくなかったら別にいいよ」仕事の話題はNGだ。慌てて取り(つくろ)う。 「いいえ、大丈夫です。コンサルタント業界です」  おいおい…冗談は顔だけにしろよ!こんな奴に誰が相談するか! 「へえ、俺もなんだ…。今は事情があって休業してるけど…」 「はい。Mキンゼーですよね」柿本は俺がクビになった会社名を言う。 「え!なんで知ってるの?」 「会社で柳さんを見た事あります…。僕、Mキンゼーで経営戦略室にいるんです」  はぁ?!嘘だろ!  経営戦略室って会社の中でも超エリートしかいねーんだぞ。 「へ、へぇ…。凄いな…。経営戦略室って社章(バッチ)が違うんだよな。近くで見てみたいな〜」  普通の社員は銀色、役員と経営戦略室のみ金色の社章をつけている。  どうだ!まいったか、柿本!ダウトォォォ! 「あ、ちょうど今ありますよ。午前中だけ出社したんで」  コロンと柿本がテーブルに置いたのは、金色の社章だった…。  わかった…。  これはドッキリだ。できれば俺がクビになったのを含めて。  周りをキョロキョロ見渡すが、いくら探しても隠しカメラはない。  マジか…。知っている顔だから話しかけてきたのか…。  人は見かけによらないか…。今日は学びが多過ぎる。
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