15. 表 - ナッキュ

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「冬一郎って何気にコミュ力高いよね」 「え、ナッキュには負けるよ」  焼きハマグリの汁を溢さないように注意しながら、ゆっくりナッキュの口元に運ぶ。 「えー。うち、人見知りなんだよ!」  ナッキュは予想外の一言を放ち、チュルッと汁を飲み「おいひぃ!」と目をぱちくりさせる。可愛い…。 「…まあ、感覚は人それぞれだからな。世の中の大半は人見知りだと思うよ」 「そなの?冬一郎も?」  ナッキュは店員にレモンサワーを頼む。  俺も調子に乗って日本酒を追加する。 「うん。初めての人と会って話すのは苦手だけど…コミュニュケーション能力はスキルと一緒…仕事で役立つツールだと割り切って頑張ってるぞ」 「冬一郎ってカタカナ用語多いよね」 「すまん。外資で働くとなりがちな口調なんだよ。日本語訳が複数ある単語は意味が伝わり辛いので、英語をそのまま使うんだ。結果、更にわかりにくいんだけど…」 「ま、うちもギャル語だし」 「ギャル語、いいじゃん。キャッチーだし、聞いてて元気が出るよ。俺が言うのは恥ずかしいけど」 「冬一郎がギャル語使ったらキモいし。コミュ力向上のコツってある?」 「コツか…。俺が思うに、直接のコミュニケーション…特に初見の人と話すって、みんな苦手なんじゃないかな。食事時だから、食べ物に例えると…生野菜をそのまま食べるみたいな…」 「苦い…ね」 「そう。生野菜で1日分の栄養を摂ろうとすると、味もそうだけど、咀嚼(そしゃく)で顎が疲れる。でも、他に方法がない場合はそうするしかない…。昔の人が直接やりとりしていたように…」 「冬一郎ってなんかうちの教授みたいな、ベシャリ方だー」 「え!面白くないって事?ごめん…」 「違うし。アカデミック…冬一郎に言うとね」 「…じゃあ続けるよ。直接のコミュニケーションは味なしの生野菜のようにしんどい。なので、自分にあった摂取の仕方を考える」 「ゆでたり、焼いたりとか」 「そう。ビジネスにおいてはできれば効率的な方法で。個人に負荷が高い方法でコミュニケーションを続けるのは、好ましくない。「我慢は美徳」は昔の時代だ。ナッキュは電子工学専攻だろ。デジタルコミュニケーションできる社会にすればいいんだよ」 「話デカくなってね?」 「サザエも焼けたぞ。黒の先っぽは苦く毒があるから、食べない方がいい。俺は食うけど」 「ファ。すっごい食感!」 「だろ!テクスチャー測定の結果、タピオカのおよそ20倍だ」 「何言ってんの?」 「冗談だよ」
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