15. 表 - ナッキュ

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 食事が終え、江ノ島観光を続ける。  ナッキュが元気そうなので、パワースポットとして有名な洞窟「江ノ島岩屋」に向かう。 「江ノ島岩屋」は波の浸食で自然にできた海食洞窟になっている。  まだ時間が早いので、人は多くないようだ。  入り口はライトがついているが、奥は暗くロウソクの火を係員から受け取る。 「暗いとこちょっと苦手…」ナッキュは俺の腕に手を回す。 「ビジター用の道は、すぐ行き止まりになるから…。でも富士山の近くまで繋がっているらしいよ」  ナッキュは少し驚いたリアクションを見せたが、本当に暗いところは苦手らしい。さらに体を近づけてくる。  第1と第2岩屋があるのだが、第1だけで洞窟散策は中断した。 「ナッキュ、生き物、大丈夫?この辺、小さいカニがいるぞ」 「マ?見たし!」  ナッキュは元気が出て、岩場で小さなカニを見つけては写真を撮っている。  横浜から観光船が江ノ島に到着するのが見える。  混雑する前に戻ろうかな…。 「生き物好きなら、水族館行く?江ノ島水族館のクラゲ展示は見応えあるよ」 「うん。とりま、歩こう」  ナッキュは俺の手を握り、トコトコ歩き出す。  歩きながらなんとなく…お互いの昔話をする。  ナッキュは生まれも育ちも渋谷区らしい。湘南育ちの俺を羨ましがった。 「こんな自然がいっぱいだと、楽しかったでしょ」 「まあな。貧乏だったから、外で遊ぶのがメインで助かったかも」 「マ?冬一郎、貧乏って感じしないよ。パパは何やっている人」 「漁師だった。もう死んだけど」 「そなの?ごめん…」  ナッキュは悪い事を聞いてしまった…と俺に寄り添う。 「親父が死んだのは10年以上前だよ。さすがにもう引きずってないよ。でも慰めのチューは受け付けるぞ」  ボフッと、ナッキュは俺のわき腹をパンチする。イテテ…。 「冬一郎って兄弟いる?」 「ん?ああ、義理の妹が2人。母親が再婚したから」 「そなの?じゃあ、実質1人っ子?うちと同じ!」 「ああ、なんかナッキュと通じるものを感じるよ。独特な人との距離感があるから」  そう?と言いながらナッキュは俺の手をプニプニ押したり、腕を組んだりリラックスしている。  江ノ島の入り口付近は、混雑し始めている。  今の時間は水族館も混んでそうだな…。
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