15. 表 - ナッキュ

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 ナッキュが冬一郎の育ったところが見たい…というので、水族館はやめてタクシーで茅ヶ崎サザンビーチに行く。 「サーファーがいっぱいいる!」  ビーチに着いた途端、ナッキュは驚き声を上げる。 「ああ、年中やってるぞ」 「冬一郎はやらないの?」 「やらない。泳ぐのは好きだけど」 「へえ。うち泳ぐの苦手。今度教えて」 「いいよ」と答え、ナッキュの水着姿を想像し、幸せな気持ちになる。 「実家ってどの辺?」 「そこの道路を超えてすぐだよ。もう家はないけど」 「子供の時、何やって遊んだ?」 「夏はこの辺で泳いでた。他の季節も大体ビーチにいたかな」 「家では遊ばないの?」 「親父がいたからな。外にいる方が多かった。年に数回祭りをやるから、町内会の人たちと準備したりとか。まあ、遊びに困る事はなかったけど」 「お祭り?」 「うん。町民総出で準備するんだよ。伝統のあるお祭り…。浜降祭(はまおりさい)っていうのが一番でかい。神輿(みこし)担いでそのまま海にダイブするんだぞ」 「ま?!あげみざわ!」 「おう。今年、日程があったら来る?7月にやってるんだ」 「うん。ねえ、冬一郎、キスして…」 「え!ここで?」さすがに恥ずかしい。結構人いるし。 「いや?」 「い、嫌じゃないよ」ナッキュの手を引っ張って、素早くキスする。  もっと欲しいと言わんばかりに、ナッキュは上目使いで俺を見る。 「なんか飲む?ちょっと早いけど、飯食うか」  時間はいつの間にか3時くらいだ。 「確かに…。お昼も早かったし。どこ行くの?」 「近くに知り合いがやってる店があるから…」  朝陽の両親がやっているレストランだ。たまには挨拶がてら…行くか。  どうやら…俺はかなりナッキュにハマっているらしい…。  幼馴染の両親の店に行くなんて…。  朝陽の一番上の姉が経営に加わり、レストランは8年前に大きくリノベーションしている。  昔は近所の連中がいくような居酒屋だったが、今は観光客が訪れるお洒落な店だ。  テラスの2人掛けのビーチが見える席を勧められ、スパークリングワインを2つ頼む。  料理の注文をしたあたりで、店内にいた朝陽の姉が気づき声をかけてくる。 「冬一郎くん?久しぶりね」 「(なぎさ)さん、ご無沙汰しています」 「ご一緒にいるのは、彼女?可愛いいわね。冬一郎くんは、弟の同級生なの」  ナッキュはペコッと挨拶をする。
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