2. 小春ちゃん

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「柳さん、下の名前は冬一郎(とういちろう)っていうんですね」  店員が去った後、小春ちゃんは早速話しかけてくれる。 「ああ、じーさんみたいな名前だろ」 「そんな!柳 冬一郎って芸術家みたいで素敵です。勝手なイメージですけど…」と恥ずかしそうに言う。 「小春ちゃんの漢字は、小さい春かな?……春と冬だね」  名前を褒められたのは生まれて初めてだ。舞い上がってしょうもない事を言ってしまった。 「はい。小さい春です。春と冬……本当だ!なんだか嬉しいです」  ……出会いはサブスクでした。  やばい…。勝手に小春ちゃんとの未来予想図を(えが)いてしまった。 「お仕事は何をされているんですか?よろしければ教えてください」 「えっ…と、コンサル業」 「うわぁ。かっこいい。外資系ですか?」 「ああ、アメリカが本社だよ」って先週クビになったけど…まあいいか。 「外資系コンサル憧れます。どんなお仕事なんですか?」  小春ちゃんはやけに仕事に食いつく…。  俺の服装が原因かも。上下ハイブランドかつ高級時計をしているから。  金持ってます感を全面に出し、会社名を出すと喜ぶ女子は多い。  そしてその喜ぶ姿が、俺たちみたいな俗物は嬉しいのだけど。 「主にやってるのは企業への戦略アドバイザー。新プロジェクトの立ち上げから参加して、収益予測やプロモーションを一緒に考える」 「へえ!企業は自分たちだけで戦略を考えるんじゃなく、コンサルに相談するんですね」  かなり雑に説明したのに、小春ちゃんは理解している。昼間は大きな会社のOLなのだろうか。 「ああ。新プロジェクトだと顧客データや競合他社の情報を企業は自社でカバーできないケースが多い。その辺のサポート含め一緒に知恵出しだをするんだ。…小春ちゃん、コンサル業に興味あるの?」 「あ、ゴメンなさい…。柳さんお仕事できそうなので、聞きたくなって…。」 「有難う。俺は小春ちゃんの事を聞きたいな。趣味とかさ」 「え、趣味ですか?うーん、お菓子作りとか…」  どは!趣味が可愛い!  焼き菓子を乗せた熱々のトレーをオシャレなキッチンミッドで運ぶ姿を想像する。 「出来たてのお菓子って美味しいよね。何を作るの?」 「シフォンケーキをよく…。自分で食べる用ですけど」 「まじ?あれ難しいんじゃないの?俺、好きなんだよシフォンケーキ」 「じゃあ、今度作ってきますね!」  ズッキューン。  ああ、射ぬかれた。
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