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「柳さん、下の名前は冬一郎っていうんですね」
店員が去った後、小春ちゃんは早速話しかけてくれる。
「ああ、じーさんみたいな名前だろ」
「そんな!柳 冬一郎って芸術家みたいで素敵です。勝手なイメージですけど…」と恥ずかしそうに言う。
「小春ちゃんの漢字は、小さい春かな?……春と冬だね」
名前を褒められたのは生まれて初めてだ。舞い上がってしょうもない事を言ってしまった。
「はい。小さい春です。春と冬……本当だ!なんだか嬉しいです」
……出会いはサブスクでした。
やばい…。勝手に小春ちゃんとの未来予想図を描いてしまった。
「お仕事は何をされているんですか?よろしければ教えてください」
「えっ…と、コンサル業」
「うわぁ。かっこいい。外資系ですか?」
「ああ、アメリカが本社だよ」って先週クビになったけど…まあいいか。
「外資系コンサル憧れます。どんなお仕事なんですか?」
小春ちゃんはやけに仕事に食いつく…。
俺の服装が原因かも。上下ハイブランドかつ高級時計をしているから。
金持ってます感を全面に出し、会社名を出すと喜ぶ女子は多い。
そしてその喜ぶ姿が、俺たちみたいな俗物は嬉しいのだけど。
「主にやってるのは企業への戦略アドバイザー。新プロジェクトの立ち上げから参加して、収益予測やプロモーションを一緒に考える」
「へえ!企業は自分たちだけで戦略を考えるんじゃなく、コンサルに相談するんですね」
かなり雑に説明したのに、小春ちゃんは理解している。昼間は大きな会社のOLなのだろうか。
「ああ。新プロジェクトだと顧客データや競合他社の情報を企業は自社でカバーできないケースが多い。その辺のサポート含め一緒に知恵出しだをするんだ。…小春ちゃん、コンサル業に興味あるの?」
「あ、ゴメンなさい…。柳さんお仕事できそうなので、聞きたくなって…。」
「有難う。俺は小春ちゃんの事を聞きたいな。趣味とかさ」
「え、趣味ですか?うーん、お菓子作りとか…」
どは!趣味が可愛い!
焼き菓子を乗せた熱々のトレーをオシャレなキッチンミッドで運ぶ姿を想像する。
「出来たてのお菓子って美味しいよね。何を作るの?」
「シフォンケーキをよく…。自分で食べる用ですけど」
「まじ?あれ難しいんじゃないの?俺、好きなんだよシフォンケーキ」
「じゃあ、今度作ってきますね!」
ズッキューン。
ああ、射ぬかれた。
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