16. 裏 - 月子オーナー

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 平日だが渋谷のスクランブル交差点は、若者で溢れかえっている。  どうやら109の前でイベントをやっているようだ。  背伸びをして様子を伺い、ハッとする。  俺が担当するはずだった、某メーカーの新ブランド立ち上げイベントだ。  確かに109はホットスポットだが、俺ならこんな安易な場所でプロモーションはしなかったのに。  人に聞こえない程度に小さな舌打ちをする。 「チッ!」  やばっ!  意識せず音が出ちゃった?…と焦って周りを見ると、斜め後ろの男性がイベント光景を睨んでいる。  …え!黒田さん?  イベントを見ながら舌打ちをしている人物は、新ブランド立ち上げの責任者、そして…ナッキュの調査では俺をハメた横領の黒幕の1人…。  ドキマギして、フリーズしていると黒田さんは俺に気づいたようだ。 「あれ?柳くんじゃない?どうしたの?」  悪びれなく声をかけてくる。とんだ悪党だ!  しかし、動揺せず対応する。真相に近づけるチャンスかもしれない。 「黒田さん…。お久しぶりです。イベント好調なようですね」 「え、あ〜。こんな場所でブランドプロモーション、柳くんなら許さなかっただろうね。もっと、特別感あふれる形で宣伝してくれただろうに。全く、がっかりだよ」  俺が次の言葉を迷っている間に、黒田さんは「お茶でもどう?」と誘ってくる。  黒田さんがよく行くという、裏道にあるコーヒーショップに入る。 「柳さん、会社辞めちゃったらしいじゃん。びっくりしたよ」  コーヒーを注文してすぐ、黒田さんは意外な発言をする。この人、俺をハメたんじゃないのか? 「ええ。色々ありまして…」  情報を小出しにして、相手の様子を見る。 「まあ、実は俺も仕事辞めちゃったんだよね」 「え!そうなんですか?」 「うん。でもこうやってイベント見に来ちゃってさ。未練タラタラ…。すっごく惚れた女みたいで、割り切れないんだよな」 「どうして辞めたんですか?新ブランド立ち上げて大事な時に」 「実質、クビになったようなもんなの。変な容疑かけられちゃってさ。もともと遊びまくってたから、因果応報だよ」  コーヒーが運ばれ、一息つく。  横領事件は、やっぱり、黒幕がいる…。正直に話そうか…。  
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