3. 深雪

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 火曜日は12時に三軒茶屋駅近くのイタリアンレストランで待ち合わせだ。  三軒茶屋は中目黒から近いがあまり来ない。  駅の近くにある女子大の学生たちと大学時代に合コンした以来かも…。  上京した若者が多く住むため、コスパが良い飲食店がたくさんある。  待ち合わせをした店も同様らしく、学生や若いOLのランチタイムで混雑している。  ここでサブスクはちょっと恥ずかしいんじゃ…。  しかし、店に入り名前を言うと、店員は奥の仕切りのある席を案内する。  席にはまだ誰もいない。お手洗いかな。  10分ほど時間が経つ…。おいおい、遅刻か?  呆れていると、仕切りの向こうから「すみません…。」と声が聞こえる。  この覇気(はき)のない声は店員ではない…。嫌な予感がするが「どうぞ。」と言う。  自信なさ気にコソコソと入ってくる女性が…今日のデート相手らしい。 「遅れて…申し訳ございません」背中を丸めて小さな声で謝る。 「大丈夫だよ。気にしないで」まあ、報告書には書くけれども。  安心したようで女性は顔を上げる…。    なんとまあ……目鼻立ちがはっきりして顔。目が線みたいだ。  すっぴんなのか?眉毛が薄いぞ。でも肌は綺麗だ。若いのかな。 「柳さんですよね。私、深雪(みゆき)と申します。漢字は深い雪と書きます」  深雪はもじもじと自己紹介をするが、俺の目を一切見ない。  これは人見知りの典型的なパターンだ。  …まさか克服するために、この仕事をしているんじゃねーだろうな。  小春ちゃんみたいな美人は期待してなかったけど、ここまで格差をつける意味って…。  心地よい春風を感じていたのに、一気に極寒の地へ投げ飛ばされた気分だ。 「柳って呼んでいいですか?」  おっと。意識がぶっ飛んでた。仕事をしなくては。 「いいよ。じゃあ、俺は深雪でいい?」 「そんな!呼びなんて。私まだ19なんです。呼び捨てにしてください」  どうしよう。下の名前の呼び捨てはしたくない。でうまく距離を取りたい。  …かといってって感じでもないし。 「…わかった。そうするよ。とりあえず何か食べようか」  いい大人が名前一つで動揺してどうする。冷静になりメニュー手に取る。
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