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---足音がする。
背中がゾッと総毛立つ。
恐ろしいという感情より先に、身体が動いた。
「これ」だけは渡すわけにはいかない。
取り上げられるのだけは嫌だ。
俺の希望なんだ。
ましてや、俺一人だけのそれではない。
弟の、俺の友達の。
ひいては、仲間たちみんなの希望でもあるのだ。
ガチャリ、とドアを開ける音がした。
恐怖の根源がこちらを覗き込む。
その僅かな隙間から、疑念に満ちた目で見つめている。
「---今、何やってた?」
完全に、疑われている。
俺たちは、この『王国』において。
いつも監視されているのだ。
「何も……。本、読んでた……」
恐怖で凍りついてしまった弟を庇うように、自分が前に出る。
……ふうん。
つまらなそうに鼻を鳴らして、敵はその場を去った。
「---もう大丈夫だぞ」
「どうして……。何で、こんな……」
「泣き言を言うな。これくらいのことで凹んでいて、これから先も耐えていけるか」
「……うっ。ゴメン、お兄ちゃん」
「謝らなくていい。全ては、大切なものを守るためだ」
弟は顔を上げ、背中に隠していた「それ」を取り出す。
『王国』の水面下に作った、レジスタンスの仲間たちと接触できる時間は限られている。
俺はゆっくりとその「それ」に触れ、震える指で連絡を送った。
『こちらRIKコード、蒼α。こちらは無事にやり過ごした。応答願う』
しばしの時が経つ。この僅かな瞬間もが惜しい。
返信が来た。
『こちらRIKコード、紅α。蒼αに了解。しかし黄αと連絡が取れない。やられたかもしれない』
隣で画面を見ていた弟が、息を飲んだ。
「そんなッッッ……菊池くんが」
「裕司……じゃなかった、蒼β。コードネームで呼べ。本名を口にするな」
「ご、ごめんお兄ちゃ……じゃなくて、蒼α」「それでいい。……紅α、引き続き警戒せよ。黄αのことはこちらでも調べておく」
『了解』
短く応答して、通信を終える。
「……」
画面を切り替え、現在の戦況を観に行った。
分かっていたことだが、『王国』の監視下にある俺たちは、圧倒的不利の劣勢だった。
『王国民は須く諦めて降伏せよ』
『もはやお前らに勝ち目はない』
「くそッ!」
敵から入る通信に、思わず舌打ちをする。
この戦いは、初めから負けが決まっているようなものだった。
それでも、負けるわけにはいかない。
ただ諦めて、勝負に挑むこともせず負けるのを黙って見ていることはできない。
「何とかするんだ……!」
俺はもはや通信の途絶えた「それ」の真っ暗な画面を見ながら、歯を食いしばった。
負けられない。
俺たちは、この戦いに負けるわけにはいかないんだ……!!!
---この小さな「端末」を、守りきるためには。
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