花桜だけが知っている

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「お前ってヤツは本当に……!」 「でも抜いて欲しくなったらいつでも言ってね?」 「あああっ……!」 この火照った身体が少しも冷める気がしなくて、思わず頭を抱え込んだ。 そんな気も知らないで、透は俺の肩に頭を乗せて鼻歌なんて歌っている。 それが今日知ったばかりの中学校の校歌だと気が付いて、そのあどけなさに驚いた。 やっぱり透の言動は全てが可愛い。可愛過ぎる。こんなに可愛い恋人がいるなんて幸せだ。怖いくらい。 「ところで遥希くん。願い事は何にするの?」 「願い事……。そういえば透は何を願おうとしたの?」 「俺のことはいいよ。もう権利あげちゃったんだから、遥希くんがちゃんとお願いしてね」 「そうか、じゃあ……」 もしも何か一つだけ願い事が叶うとしたら。思い浮かぶのはただ一つだけだった。 それは子供のような我儘で、決して許されるものじゃない。誰かを傷つけることになるかもしれない。 それでも願わずにはいられなかった。 俺は透の小さな手に指を絡めて、きゅっと力強く握り締める。そして消えそうなくらいの小声で、ぽつりと願い事を呟いた。 「この先もずっと何年経っても、透と一緒にいられますように」 透を愛している。彼と寄り添い合う幸せを知ってしまった俺は、もうそれを手離せそうになかった。 神様でも桜の妖精でも何でも良いから、その願いを叶えて欲しい……。 「遥希くん!」 ざあっと大きな風が吹き渡って、俺たち二人を包み込む桜吹雪。まるで夢の中みたいに美しい景色。 恐る恐る隣を振り向くと、淡紅色の花弁を頬につけた透が嬉しそうにはにかんでいた。 「遥希くんの願い事、俺と一緒だった!」 透の言葉一つで胸が熱くなる。 もう人目なんて少しも気にならなくて、華奢な身体を強引に抱き寄せた。 「わあっ!?」 鼻先に触れる詰襟の制服から、真新しい匂いがする。今は大きくて袖の余ったこの制服も、いつかは彼にぴったりサイズが合う日が来るんだろう。 この先、透が成長して大人になっても、隣にいるのは俺が良い。 いつも透の一番近くにいて、互いに愛し愛されて、透と共に生きて行く。 「これからもず〜っと一緒にいようね? 学校が休みの日は遊びに行こ? 映画見たり野球の試合行ったりしたいな。あと遥希くんの家にも泊まりたい、ゲームする!」 「分かった。何処か出かける時はいつもみたいに車で迎えに行くよ。俺の家にも来て? 新しいゲームも買っておくから。透がしたいことは何でもしたい」 「したいこと、まだまだたくさんあるよ? でもずっと一緒だから、少しづつ叶えていけばいいね」 「うん、そうしよう」 透の頬についた花弁を摘んでやって、柔らかな肌に手を添える。すると透がすぐに長い睫毛を伏せて、どちらともなく唇を重ね合わせた。 じっくりと愛を確かめ合うような口付けが、俺と透の間で交互に繰り返される。 「透、大好き。愛してる」 「俺も遥希くんのこと愛してる〜!」 花の雲に隠れて愛し合う二人。 誰にも言えない秘めやかな願い事は、花桜だけが知っている――。
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