光 (Jの物語:番外編その9)-完-

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   ほっとした藤吾が用意した出生届。そこに書かれたのが『超愛』だった。 「お母さん! 僕は『まさなり』と言ったんです!」  少し外れて、『正成』でも『真成』でもいいと思った。大きく譲って『大成』だ。  だが『超愛』、これはなんと読むのだろう? 「あなたが望んだとおり、『まさなり』よ。あなたは読みを、私は字を考えた。いいでしょう?」  後の藤吾は自分というものを確立したが、この時期の藤吾はまだ若い。期日内には届を役所に出さなければならない。心の中でなんとか必死に折り合いをつけて行く。 (まさなり。小さいときはひらがなでいい。学校でもそれで通る。仕方ない、字は目を瞑ろう……)  すくすくと美しく育つ超愛は、現実から遠い青年になっていく。花を()で、春を追い、瞳に収めた美をその手から創り出す。  宗田家では初めての画家だった。  夢との出会いは超愛の中に初めて異性への思いを生んだ。手を繋いで絵を見に行き、演奏会を聞きに行く。そして、ピアノやバイオリンを弾く夢を絵に描いた。  夢の家は音楽一家で、母はバイオリニスト、父はピアニスト。音楽の世界に浸りきって育った夢もまた、現実感が乏しい。  そこが互いに惹きあうのだろう、睦まじい二人の恋は急速に愛に発展していった。  夢想家と夢想家の結婚を藤吾はひどく危ぶんだが、父と母は孫のために藤吾を説得した。 「なんて可愛いお嬢さん! 藤吾、二人の気持ちがなにより大切よ。あなたたちの時も私たちはそう考えたの」  それを言われてしまえば強い反対もできない。二人の純粋で深い愛を信じ、藤吾は結婚を許した。  それが超愛18歳、夢16歳。この家系では藤吾も含め、年齢にさして頓着しない。  そして長男の花が生まれる。  才能ゆえに超愛も夢も世界へと旅立つのだが、行く先々でふれ合うのは自分たちと似たような人ばかり。平たく言えば類友(るいとも)だ。だから現実世界との隔たりに気づくことも無かった。  行く先々でも花は愛された。美しくて存在感のある子ども。多国の中を行き来し、幼いからたくさんの文化、言葉を吸収した。いろんな外国の会話を戸惑いもなく受け入れていく花は、超愛と夢の輝く宝物だった。  
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