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二人が自分の世界を追求していけば、どうしてもそこに共にいることで起きる障害がある。
「日本に……帰らないか? 花のところに」
「ええ。ゆっくりそこで考えましょう、これからのことを」
超愛の絵の世界と、夢の音楽の世界での時間にずれが何度も生じていた。一か所に留まりそこで作品を創り上げていく超愛。絶えず外からの刺激を受け取り、変化を糧とする音楽の世界。
それから目を逸らすことは出来ない。
14歳の我が子のそばに帰りはしたが、なぜか花のことが分からなくなっていた。
自分たちを拒む花にどうしていいか分からず、近所での少ない友人の一人時恵や、その娘で花の幼馴染の真理恵に花のことを聞いた。
「好きな食べ物は何かしら」
「日本では花はどうしているんだろう?」
いつも時恵は悲しそうな顔で二人を諭す。
「理想の生活をすることと、親でいることの両立は出来ないの。どうか花ちゃんをちゃんと見てあげて」
「でもあの子は強い。いつも正しい」
「親がそういう目で見ちゃだめ。見守ってあげないと。たまに見る姿が全てと思っちゃいけないのよ。あなたたちは花ちゃんのごく一部しか分かってない」
時恵の言うことこそ、分からない。自分たちが分かり合っていないなど。
「僕たちはあの子を連れて日本を出ようと思っているんだ」
「それ、花ちゃん知っているの? 納得しているの?」
「花は話を聞いてくれないんだ」
「それが答えなんじゃないかしら? あなたたち二人の在り方への」
幾度となく話し合いを続ける二人。
「僕はドイツで花と一緒に夢さんを待つよ。夢さんはいろんなところに旅立っていいんだよ」
「いやよ…… そばにいないと死んでしまうわ……」
「でも音楽が消えても君は死んでしまう…… 夢さんから光が消えるなんてあってはならないよ」
「待っててくれるの? 二人で?」
「もちろん! 愛は変わらないね?」
超愛は微笑んで夢に聞いた。
「ええ、変わることはないわ。私たちは互いを信じているもの。でも自分の道も愛してる」
「僕もだよ。心は離れない。絵を描く僕は音楽を愛する君と同じ時間を共有できない。でも何が隔てたとしても僕らには距離も時間も存在しない」
両親の間がそれでよくても、花がそんな二人を受け入れられるわけがない。
息子、花がどれだけ冷めた目をしているのか超愛も夢も知らなかった。この世は美が溢れている。それが人生の全てであり、自分たちの世界。当然花もその中に住んでいると思い込んでいた。
だが、不幸にも花が住んでいるのは現実の世界だった。
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