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「花。話を聞いて欲しい」
「なに?」
「ドイツに行こうと思っている」
「今度はドイツ? 構わないけど」
「花にも一緒に来て欲しいんだ」
「は?」
「もしかしたら永住することになるかもしれない。夢さんはイタリアに行く」
「それって……なに、離婚?」
「違うよ。僕たちは愛し合っているからね。でも会うことは少なくなると思う。でも互いに信じあっているからそれは問題にはならないよ」
「言っている意味が分からない」
花に渦巻いた怒りは思ってもいないほど激しいものだった。
「で、俺を父さんが引き取るってこと?」
「引き取るとかじゃないよ。母さんの方が移動が多いんだ。だから僕の方に……」
「勝手なことばかり言うなよっ! なんだよ、それ。どれだけ好きなようにしてれば気が済むんだよっ。俺を巻き込むな!」
「花。よく話し合ったの。二人で出した結論なのよ」
「そこに俺の意志は無いだろう」
「話を聞いてくれないから……」
「俺のせいかよっ! ふざけるな、何が親だよっ!」
立ち上がって椅子を蹴り上げる花に驚いた。転がった椅子が激しい音を立て、二人とも身を竦めた。
「あんたらに世話にはならない。俺はここで一人で住む」
「花、ここは……売りに出すんだ」
呆然とした顔は、自分たちの知らない花だった。
「そ。決めたことならいいよ。近くのマンションにでも暮らす。生活費だけ送ってくれればいい」
「花……」
「あんたたちは自由に暮らしてきたろ? これからも自由にすればいい」
夜、夢は心配になって花の部屋を覗いた。
「まさなりさん! 花が、花がいないの!」
「他の部屋は!?」
こんなに大声で話すなど、二人には無い。花のことだからこそだ。広い家の中を花を求めて、名を呼んで探し回る。どこにもいない……
「まさなりさん、どこにもいないわ」
泣いて身を震わせる夢。その小さな体を抱きしめて涙を零す超愛。悲しみや寂しさに耐えられない二人……
そこに電話が入った。超愛の母、天音から。
『花がこちらに来てますよ。どうしますか?』
「行きます、これから! 探してたんです、花は無事ですか?」
『無事ですよ。でもね…… 来たらお父さんとも花ともちゃんと話をしなさいね』
二人は急いで支度をし、両親の元を訪ねた。
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