光 (Jの物語:番外編その9)-完-

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   超愛は主にドイツ、オーストリア、クロアチアに滞在した。その気候、自然の美しさ、そして、過去の人の介在した自然との同一化。時間もなにもかも忘れ、その中を漂い歩き、そして一心不乱に絵を描いた。  夢は世界じゅうでの演奏旅行や他の音楽家の演奏会の中で音楽に浸った。身を震わせるような楽曲を聞き、その余韻の中で自分の音の世界をまた創り上げていく……  時に連絡を取り合ってどこかの国のカフェで待ち合わせたりする。そのまま二人で数週間の旅をしたり。  また、共通の知人の開くパーティーで偶然互いの姿を見つけることもあった。 「ゆめさん!」 「まさなりさん!」  二人が抱き合うのを見てみんな微笑ましくなるが、それでも二人の在り方が不思議で堪らない友人たちもいる。 「Yume、Masanari、愛し合っているならそばにいたくはないのか? 不安にならないのか?」 「僕たちが不安になることはないよ。僕たちにとって愛は永遠のものだ。時も距離もなんの懸念の材料にならないんだ」 「でも、Hanaは? 理解してくれてるのかい?」  言葉を考える。どう言い現わせばいいのか。 「変わらない愛を持っている。どんなことがあっても家族だ。花を愛さずにいられるわけがない」  そこには新しい強い決意生まれていた。    超愛の心は多くの交わりの中で変化し始めていた。『美』を求めるのは外形だけだろうか。究極の『美』とはなんだろう。  突き進んでいく、その答えを得るために。ただ絵を描くことが『美』の追求ではない。見た目の美しさだけが『美』なのだろうか? (愛があれば美しいのか? 『美』の概念はなんだ? 欲しいのは自分で掴む答えだ)  自然は完璧な『美』だと思う。そこは揺るがない。だが自分の求めたいことはそれじゃない。 (夢さんを思う気持ち。花を思う気持ち。そこに生まれるのは違う『美』だ。僕の中に生まれてくる2人へのこの思い。これも『美』なのかもしれない)  
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