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鬼ごっこ
絶対に負けられない戦いがある……。
そう……〝鬼ごっこ〟だ。
〝鬼ごっこ〟だなんて聞くと、ただの遊びだろうと思われるかもしれない……。
だが、そう思った者はとても幸せな時代に生きている人間だ。
俺達が生きているこの時代において、〝鬼ごっこ〟はただの遊びを意味する言葉なんかではない……。
「ーーおい! 急げ! もっと速く走れっ!」
「…ハァ…ハァ…あ、あたし、もう…キャアァァァァーっ…!」
振り返り、声をかける俺の目の前で、逃げ遅れた女性がまた一人、〝鬼〟に捕まった。
「グェェェェェーッ!」
鬼は不快極まりない雄叫びをあげ、捕まえた女性の首筋にかぶりついてバリバリと骨ごと貪り喰いはじめる。
蒼白い肌をした筋肉隆々の体に頭から生えた二本の牛のような角、赤々と燃える両の目に鋭い牙の生えた涎塗れの大きな口……何度目にしても全身の血が凍りつくような恐怖を感じさせる外見だ。
まさに古の時代から語り継がれる〝鬼〟そのものとしか思えないその姿……だが、ヤツらは昔話でも伝説でもなく、今、厳然としてそこに存在している現実なのだ。
ヤツらはある日、突然に現れた……。
いったいどこからやって来たのか? 真実は今もってわからない。
ある者は宇宙から来た異星人であるといい、またある者は氷河期に冬眠していたレトロウィルスが温暖化により目覚め、それに感染した人類が突然変異を起こした存在なのだという……。
ただ確かなのは人間が喰い殺されずに生き残った場合、ヤツらの保有するウィルスに感染して同類の鬼になってしまうということだ。
そうして、最初は一体だけが某国で確認され、まるでUMA(※未確認生物)か都市伝説の如くデマ扱いで噂されていたものが、あれよあれよという間に数が増え、今ではむしろ人類の方が絶滅危惧種になりかけている。
「クソっ! そんなに腹減ってんなら、これでも食いやがれっ!」
もう幾度となく見ている光景ではあるが、同族の死を前に怒りの込み上げてきた俺は、その場に立ち止まると小銃を構え、食事に夢中な鬼めがけて弾丸を連射する。
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