鬼ごっこ

2/13
前へ
/13ページ
次へ
「グェェェェェーッ!」  高速で直撃する弾丸の雨に、叫ぶ鬼の蒼白い皮膚は裂け、真っ赤な血と肉塊が四方八方へと辺りに飛散する……普通の生物ならば、確実に即死しているはずの致命傷だ。 「おい! 何やってんだ、ダンジ!? んなもん効くわけないだろ!」  だが、先を行く仲間の一人、金髪ショートボブのヨシカズが、足を止めることなく振り返り、無駄弾を撃つ俺を大声でそう叱責する。 「ああ、わかってるさ……充分すぎるほどにな」  射撃をやめ、俺がそう答えている間にも、砕けて血塗れになった鬼の肉体は再生を始め、喰い散らかした女性をその場に投げ捨てると、今度は俺の方へとその赤く光る眼を鋭く向けてくる。  また、遠くその後方にもわらわらと、暗青色のやら黒緑のやらが方々から次々と湧いて出てきている。 「チッ……」  身の危険を感じた俺は舌打ちをし、踵を返して再び全力で走り出した。  先程、ヨシカズが言っていたように、小銃弾はもちろんのこと、基本、通常兵器で鬼を殺すことはできない。  ヤツらは驚異的な速度の再生能力を持っており、再生が間に合わないくらいに一瞬で全身を破壊しない限り、どれほどの傷を負わせても無駄に終わるのだ。  そのことも、鬼がここまで急激に増加した大きな原因の一つである。  それでも世界各国の軍隊がまだ機能していた内は強烈な爆発力を持つ兵器を用い、文字通り瞬時に肉体すべてを吹き飛ばして消滅させることができた。  また、着弾した瞬間に細胞の再生を阻害する薬品が飛散する対鬼専用小銃弾なんてものも開発され、一定の戦果をあげることも少し前まではできていた……。  ところが、ねずみ算式に増えてゆく鬼の侵食は他の公的機関同様、軍においても例外ではなく、軍隊も、そして各国政府も時を置かずして機能しなくなった……。  つまり、今は国民の命を守ってくれるような公の組織は存在せず、自分の身は自分で守らねばならぬのだ。  加えて社会が崩壊したことで物資の流通も止まり、日用品はもちろんのこと、食料さえ手に入れることはままならなくなった。  だから、俺達わずかに生き残った人間は小規模な集団を作り、襲い来る鬼より逃げながら、食い物を探してこの荒廃した街を彷徨い歩いている……。  そう……この〝鬼ごっこ〟は遊びではなく、人類の生存をかけたまさにサバイバルゲームなのだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加