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「――ハァ……ハァ……ここまでくればもう大丈夫だ……あの寺みたいの……ここは昔の浅草か?」
追って来た鬼の姿が見えなくなると、立ち止まり、肩で息をするヨシカズが朽ちかけた大きな楼門を眺めながらそう呟いた。
門の下にはボロボロに破けた、巨大な提灯みたいなのが転がっている。
「…ハァ……ハァ……あのバカ高いのってスカイツリーとかいうのだよね? なら、そうなんじゃない?」
同じく荒い息を整えながら、仲間内では最年少の小柄な女の子ネジコも、近くに見える高い塔を仰ぎ、口元に巻いたスカーフの下からくぐもった声でそれに答える。
その天を突くように伸びた塔には全体に蔦が絡まり、まさに〝空の樹〟と呼べるような外観をしている……なんかイメージとは少し違うが、彼女の言うようにこどもの頃に聞いたその電波塔なのだろう。
「なら、お土産屋さんもいっぱいあるよね? 食べものも何か残ってるかも」
こちらは華奢な見た目に反し、意外や一番身体能力の高い美少女カナが、ポニーテールを揺らして辺りを見回し、穏やかな微笑みを湛えながら暢気な声でそう口を開く。
「おお! 食いもんか! そいつはありがてえ! あの鬼のおかげでいいとこにたどり着けたな」
仲間の最後の一人、毛皮のベストを着たワイルドな見てくれ同様、頭もちょっとバ…いや、単純明解なイノウも、カナの言葉に歓喜の声をあげている。
食料を入手できる機会は、先日立ち寄った阿佐ヶ谷の自衛隊駐屯地跡以来だ。
そこで見つけた缶詰もそろそろ底を尽くし、久々にありつける食い物にもちろん俺もうれしくないわけがない。
「まあ、有名な観光地だし、すでに先客が漁ってるとは思うけど……よし! 探してみよう!」
イノウに続いて俺も嬉々とした声でそう告げると、付近の廃墟と化した店の跡らしきものを一軒々〃、皆で捜索し始めた。
もちろん、鬼の襲撃を警戒しながら……。
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