鬼ごっこ

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「ぷは〜っ! ああ〜うまかったあ! なあに、大丈夫だよ。ずっと鬼の気配はしてねえからな」  スープも全部一気に飲み干したイノウが、あいも変わらず大きな声で渋い顔を作るヨシカズにそう答える。  野生の勘とでもいおうか、頭は単純だがイノウの五感は非常に優れているので、彼がそう言うんならまあ、大丈夫なんだろう。 「そうね。この界隈にはわたし達以外人もいないみたいだし、鬼もどっか他へ行っちゃってる可能性が高いわね」  イノウの意見には、冷静沈着で論理的な思考をするカナにしても自らの見地より賛同する。  彼女の言う通り、食料となる人間がいない所には必然的に鬼も寄りつかなくなる。  それに、人類にとっては幸運なことにも、鬼達は超人的なその再生能力に比して獣のように目や耳や鼻が効くわけではない。そうした感覚器官に関しては人並みなのだ。  だから、近くに寄らない限り、遠くからこちらの存在を察知されることはないのである。 「そうとわかれば、もっと探してありったけ食い物を集めておこうぜ!」 「うんうん。もっと美味しいものあるかもしれないね!」  二人の言葉にヨシカズとネジコも顔色を明るくし、食事を終えた俺達は土産物屋街の物色をなおも続けることとなった。  ところが、朽ちた楼門をくぐり、「仲見世」と書かれたプラスチック製の行燈がずっと奥まで連なる、朱色の小さな店の立ち並んだ路地に入った時のことだった……。 「さあて、次はどんなうめえもんにありつけるかなあ……」 「……ん? おい、どうしたんだよ?」  意気揚々と先頭を進んでいたイノウが不意に足を止め、その背中にぶつかった俺は訝しげに問いかける。 「み、見ろ。あれ、ガラクタなんかじゃねえ……」  すると、イノウはゆっくりと指を前方に伸ばし、そこに転がる店舗の残骸を俺に指し示す。 「…ん?」  それは、何やらキラキラと光を乱反射させている大きな塊だ。  さっきから目には入っていたが、たぶん壊れた店舗から落ちた看板か、ガラス窓か何かだろうとずっと思い込んでいたのであるが……いや、そうじゃない。  それは、人の形をしている……四つん這いに丸まった人間が、そのまま氷のように固まってしまったような印象を受ける代物だ。
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