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スゥゥゥ…ハァァァ…スゥゥゥ…ハァァァ…スゥゥゥ。
目を閉じながら、青コーナー、はじまりのゴングを待つ。
付け馴染んだ特殊グローブから発せられる汗の匂い、確かめるロープの張り
具合、パンプアップした上半身各部の筋肉。
その場でステップを踏みなおす、靴底とリングの摩擦音、普段通りの動きか?
硬い部分はないか?
キュッキュツ、ギュウウウッ、スゥゥゥ…ハァァァ…。
大丈夫だ…今日の俺はいつもの俺だ、いつも通り、いつも通り…俺は負けない、
負けるはずがない。
俺こそが強い、俺こそが最強、俺こそ唯一無二。
まだ目を開けない、ひとりごとだ、わかってる。
つぶやきながら、一度熱くなった血肉を、もう一度冷ましてゆく、冷たく熱く、
冷たく熱く、真っ赤な炎のイメージ…じゃない。
俺は青白い炎だ、冷たく熱い、熱く冷たい…。
ゆっくりと目を開ける、まぶしいスポットライトが端から射し込んでくる。
コーナーポスト越しに、毛むくじゃらの相棒が黙ったまま観察するように、
俺の意識と体の隅々を見ている。
顔を静かに上げる、目と目が合う、コジローが狼属特有の青白い下をだらり
と長い口先から出してニヤリと笑う。
「よー、相棒!今夜もカスタムボディーはご機嫌なようだね?左肩のモーター
音も両下肢の関節ユニットも不具合はなさそうだが…それでも十分気をつけるんだよ?何しろ、ここから先の相手は、今までとは格段に違う。」
赤壁マシロは、口角をフッと上げる。
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