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人。
「手放す?」
鬼。
「このチカラを?」
ふと両手を見下ろす。
黒い毛皮に覆われた指の数さえ人から外れた異形の手。
これまでの人生で幾度となく見てきた弱々しい人の手。
2つの手。
「チカラを……『鬼』を手放すとしたらどうなる?」
人の手を見つめる。
「そうね。殺鬼人に刻まれたその傷は無かった事にしてあげる。」
「だけどそれだけ。」
「アナタが犯した罪は消えず、残りの人生は牢屋で過ごす事になるでしょうね。」
コウモリ男となって血を啜った。
血袋達の顔は思い浮かばない。
だが、それなりの人数を手にかけた感触はある。
「……『鬼』を受け入れるなら?」
異形の手を見つめる。
「分かってるでしょ?アナタがあのまま暴走し続けたら『どう』なっていたか。」
黒き毛皮を纏い、靴からは鉤爪が飛び出し、肉は衣服を破く程に膨張した数分前までの己。
まさに怪物。
その先。
そして思い出した。
何故、暴走したのかを。
その理由を。
ならば。
ならば答えは1つだ。
「あぁ。『鬼』を受け入れるよ。『コレ』を手放すのは死ぬ事よりも受け入れ難い。」
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