1.ゆめに押し付け損ねた

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1.ゆめに押し付け損ねた

 朝、目を醒ましてすがりつく夢こそ、本当の意味での夢である気がする。朝、ゆめとうつつの淡いにふやけた体の皺に溶け残ったザラザラを、うつつからゆめに押し付ける瞬間の話だ。  あなたも一度や二度経験があるだろう。ないというなら、それこそうつつの手には負えない。ゆめで逢いましょうと一言置いて、さようなら。  こんなことはゆめだ。  そんなことはきっと、ゆめだ。  ゆめで、あってくれ。  唱えて、うつつが現実の模に組まれていくに含まれたら、ゆめに押し付けることに成功してホッとする。  僕の朝に時々去来する、尻尾のない彗星のようなそいつは、酸素の代わりに本のページを盗んでいく。  元から落丁本だったのだと、記憶をうつつに収まる形に改造して、去っていくのだ。  うつつとゆめに折り目をつけるように、僕は必ずそうされた本を買い重ねるから、回数の実数が把握できている。どんなもんです。日常はぼんやり生きてはいけない、工夫と知恵と勇気とコーヒー、それと笑うことです。  さぁてね。  今度の出来事もゆめに押し付けて、一冊本を買うだけのことだと思っていたんです。  文庫本ならいいなぁと、出費は少ない方が助かるなんて及び腰の貧乏性がいけなかったのか、ゆめは頑なに引き受けてくれようとしないんです。  
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