2.大根置いて逃げてこい

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2.大根置いて逃げてこい

 駅前のロータリーでした。  日曜日の昼下がり、僕は駅前のお総菜屋でお弁当を買った。急ぎ歩きで帰ってお昼にしようと、呑気なものでした。  タクシーやバスが回遊する道路に、一台のいかめしい車が不気味に速度を落として歩く僕と並走したのです。  スモーク張りの窓が降りると、中から男が声をかけてきました。 「大根置いて逃げてこい、しくじったら、これだ」  男の目は、バスの終点表示のようにグルグルと白目と黒目とが回転していました。僕は見慣れた「南武田」の電光掲示を待ちましたが、ゆっくりゆっくりと、男の目は白と黒とを繰り返していただけです。  男は車の窓いっぱいにジェスチャーをしてみせました。不正解やボケ回答が許されない無粋なクイズです。男の指は鋭利な刃物になって、自分の首をかっ切るのです。 「タイムリミットは今日中。日が終わるまでだ」  男は低いのに澄んだ声でそう言うと、窓の内側に姿を消し、車もスピードを上げて何処かへと去って行ったのです。  僕は途方に暮れて立ち尽くしました。  人の往来が僕を邪魔にして、自転車のハンドルが肩をかすめても。  手に提げたお弁当のポリ袋がたまりかねて「帰ろう」と言ってくれるまで、ずっとずっと立っていました。  立つ、こと以外の動作に特別な許しが必要な気がしていました。  往来の人たちの持つ許可証を僕だけ貰っていなかったような、錯覚を覚えました。  瞬間に、世界が切り分けられてしまったのです。  僕を乗せたお皿は、地獄へ宅配されたのでしょうか。 
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