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3.視神経アイスモナカ幻の映画館
ゆめだ。
うつつが現実の模に組まれていく過程で、神様という名の現場監督が排除する、うつつにあってはいけない素材。
これはゆめだ。
と、僕はアパートのこたつ机にかじりついて、お弁当を食べていました。五十円足してよそってもらったわかめご飯の塩加減が絶妙過ぎて、その分か? とうっかり納得しかけるも、釣り銭の少なさに文句は言えました。
ゆめだ。
いや、弁当食っておいて何を言う。
いや、弁当はうつつだ。
なら、あの車も、男もうつつだ。
なぜ、そうなる。
じゃぁいいさ、そう思いたいならそれで。
待ってくれよ。
ゆめだゆめだと頭をしぼっても、現実感が何処へもいかなかった。男の言葉を黙殺できない自分、それこそが、この遭遇した出来事をゆめではないと証明していたのです。
ため息も出ませんでした。
僕の視神経はあの車のナンバーに付着して、地獄へのハイウェイを時速100キロで伸びていたのです。
変わってしまった世界で僕は途方にくれました。
こんな風に、時に世界は僕らを置いて、勝手な変化を強行するのです。待って。
映画館は自由席でいいじゃない。暇な日曜日、一日中何回も同じ映画観たっていいじゃない。
またおんなじ映画観てるのか、そう言った僕に、母さんは言った、二度目は一度目に気が付かなかったところに気付けると。
僕の今度の出来事に、二度目があるのかないのか。
「ジャンケンでアイコになってるのに、勝ち負けがついてるんだよ、おかしいだろう、一回観ただけじゃそんなとこ気付かないだろ」
母さん。それはなんて映画?
タイトルよー覚えないんだよ。
じゃー、内容を教えて。
母親が赤ちゃんを男三人に押し付ける話。
あー、わかった。ジャンケンだね。今度、観ておくよ。
母さんに連れられて、幻の映画館へ。
自由席。
隣のカップルは開始三十分のところで入ってきて、次の回の頭三十分観れば繋がるよと言った。
売店で買ったアイスモナカは最中の質感がとってももなかもなかしていて、半紙のようにけばだっていました。
アイスモナカも途中入場も奪い去って変容した世界に、今更ながら僕は叫ぼう。
勝手に変えてくれるな。
僕の世界は僕の物でもあっていいはずだ。
アイスモナカ、高校生の頃、文芸部の発行した薄い冊子を、悪友と全部焼却炉で燃やしたことがあります。
いえ、一部だけこっそり鞄に入れたのです。
そこに書かれた一編の小説を、僕は今でも覚えている。
悲鳴を聞いた女が怖くなって、映画館に作り物の悲鳴を聞きにくる話でした。そこに、アイスモナカが登場していました。
あー、アイスモナカどころじゃない。
大根だ。
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