7.貧乏花見の会

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7.貧乏花見の会

「貧乏花見の会?」  山下君はスポーツ新聞ではなく百貨店の包装紙でくるんだ大根を僕に持たせてくれました。たわわな大根葉が僕の鼻をくすぐりました。 「うん。贅沢な料理なんか僕も作れない、同僚連中もみんなそうだろうからさ、それぞれ下手な料理、つつましいの、持ち寄ってさ美味い酒飲まないかって会」 「楽しそうですけど、会の名前はなんなんです」 「落語だよ、そういうお話があるの」 「ああ、なんだ、安心した」  僕は職場の同僚数名に連絡して、うちで貧乏花見の会を催すことにしたのです。まな板が喜んだように、心地のいい音が響きました。  豚肉と、大根と、きゅうりと、大根葉。  さすがに、大根に一刀目を入れた瞬間だけは背筋が寒くなりました。けれど、それだけのことでした。僕はゲームを放棄することで明日を開くことにしたのですから。  勝って閉じた扉の数だけ、僕は大根葉を細かく刻みました。 「やぁ、よく来ましたね」 「ごめんねぇ、ナポリタンしか作れないから、俺」 「はは、いいってことです、うわタッパー血みどろ」 「俺はちょっと料理できるから、みろよ」 「わ、ちくわの磯部揚げにチーズ入ってる、すごーい」 「料理なんか生まれて初めてやったよ、ほら卵焼き」 「たくわんでしょう?」 「は?」  落語好きに声をかけなくて正解でした。たくわんを噛まずに飲み込んで目を白黒させないといけないところ。車の男じゃないんだ、僕は。僕の目はずっと黒いです。   「きゅうりって炒めても旨いんですね」 「歯ごたえがいいのは?」 「ばっか、大根の葉っぱだよ、俺好物」  大根葉の評判が上々。  缶ビールが凹んでいく。  男たちのにわか料理を肴に、会は盛り上がりました。  掛け時計が十一時を過ぎ、今日の終わりを長針短針一本のふりして夜を閉じるのか、そして、朝を旅路に開くのか。  大根を置いて逃げずに、僕は今日を終えます。  男のジェスチャーが網膜に再現されます。  明日また、何か僕の知らない戦いが始まるのでしょうか、でも、僕らはずっとそうしてきたのかもしれません。  勝っても負けても、また、戦うのです。  負けられない戦いなんか、ないのです。  時計が夜を閉じました。 「先輩、これ、材料残ってるなら」 「うん」 「おかわり作ってください」 「いいよ、君んちの大根だ、幾らでも作るよ」 「貧乏花見の会、おかずMVPは先輩ですね」 「ああ、僕の勝ちだね」  
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