なれの果て

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「また、負けた」  エヌ氏がつぶやく。そして、勝った仲間にしぶしぶ金を渡す。例の取引が完了し、金が入ったのだ。ひさびさのギャンブルである。ビルの一室でテーブルを囲み、友人と盛りあがっている。 「お前は今日も弱いな」 「そうかな、自分ではうまくなっていると思うのだが」 「だったら負けないだろう」 「それもそうだ」  エヌ氏の発言に友人が笑う。待ち望んだ風景。そんななか、エヌ氏の体には機械の臓器がひとつ埋め込まれている。そのことにだれも気づかない。エヌ氏自身も変わった感じはしない。それくらいなじんでいるのだ。  なんの臓器を売ったのかは、忘れてしまった。もとより興味のあることではない。覚えるつもりもなかった。 「そういえば、人工の臓器って知っているか」  ぼんやりと考えていたせいだろう。エヌ氏はついつい口に出してしまっていた。 「急になんだ」 「いや、ちょっと気になったもので」 「妙なタイミングで気になるな」 「まあ、いいだろう。それで、どうなんだ。知っているのか」  友人の反応を見る限り、そこまで奇特な話題ではないようだ。エヌ氏が思っているより、機械の臓器は社会に受け入れられているらしい。 「知っているもなにも、おれの父親は世話になっているよ」 「そうなのか」 「ああ、年寄りになると病気が多くてな。おれも将来ああなると思うとうんざりだ」 「そういうものか」  いまの時代そこまでめずらしいものでもないらしい。そうとわかればギャンブルを楽しむほかにない。エヌ氏は気を取り直して言った。 「さあ、つぎは勝つぞ」 「お前は、そんな負けつづけでよく賭けごとが嫌いにならないな」 「ふむ、言われてみれば不思議だが、好きなんだからしょうがない。理屈で説明できるものではないのだろう」 「お前が言うと説得力があるな」 「そうかな」  エヌ氏がわかったような、わからないような顔をする。トランプが配られ、それぞれが自分の札を広げる。エヌ氏も手札を見て、どう勝ってやろうかと考えていた。なんて楽しい時間なのだろう。
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