みどりのめのかいぶつ

10/21
前へ
/21ページ
次へ
「……ここ、いつの間に開いてたんだ? 屋上は立ち入り禁止だって鍵かかってたはずなのに。よく知ってたな」  そう言いながら彼が(みぎわ)に近寄っていく間にも、(みぎわ)は驚きから立ち返れないのか、目を丸くして彼を見つめていた。いつになく過剰な反応だった。ただ普段と違うのはそれだけで、それ以外はごくいつも通りに見える。なんだか安心して、彼はそっと胸を撫で下ろした。  そのあたりで気持ちが落ち着いたのか、(みぎわ)の顔からは驚きの色が消えたが、代わりに眉根を寄せ、苛立っているような素振りで肩にかけていた鞄を漁り始めた。そして(みぎわ)が引っ張り出したのは筆箱とノートで、乱暴な仕草で何かを書いたと思えば、それを彼の方に見せつけてきた。 『なんで付きまとってくるんですか?』  ノートいっぱいに書かれていた言葉は、(みぎわ)の表情も相まって、どう捉えようにも疎ましさの表れにしか見えない。それでも、明確な意思を初めて向けられたという事実が、馬鹿みたいに彼の心を跳ねさせた。  そんな浮かれた心が、提示された疑問符への回答を流れるように弾き出す。  ――なんでって。 「目が」  咄嗟に口をついて出た言葉に、彼自身が驚いた。苛立ちから訝しげな表情になった(みぎわ)の様子も目に入らない程度には、自分の言葉に動揺し、それからすぐに、ああそうかと納得に至る。  どうしてこうも(みぎわ)という男が気にかかるのか、答えはごく簡単だった。  あの色、緑に輝いたあの目の色が忘れられないままでいるのだ。もう一度あの色を見たいと、そう思っているのだ。潤み輝く緑が、脳裏に焼きついたままでいるから。  つまり、結局のところ。 「あんたの目がきれいだったから」  その一言に尽きた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加