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彼がぽかんと立ち尽くしていると、不意に後ろから声が掛けられた。
「お前、汀を誘うなんて馬鹿だなぁ」
振り返ってみれば、呆れ顔で立っていたのは彼の友人だった。
「ミギワ、って、あいつの名前?」
「そ。なんだお前、名前も知らないであいつ誘ったの?」
「いや、なんか見たことねーなって思ったから、折角だし……」
そう言うと、友人は更に呆れたような顔をした。
「あのなぁ、あいつ、すっげぇ付き合い悪いんだよ。俺、去年もあいつと同じ講義取ってたけど、イベントごとに誘っても全部断ってさぁ。つーかそもそも口すら利かねぇし、ふざけてるよな。だからもう誰もあいつを誘ったりしねぇの」
「へぇ。口利かないってのは何?」
「言葉通り。だーれもあいつが喋ってんの、見たことも聞いたこともないって話。どんだけコミュ障なんだよって感じだよなぁ。あいつ、グループディスカッションとかある授業取ったら、間違いなく単位落とすね」
「ふーん……」
随分と変わった奴なんだなぁ、と思いつつ相槌を打った彼の背を、友人が軽く叩く。
「お前もさぁ、あんま汀には関わんない方がいいぜ。なんか変な噂あるって聞いたこともあるし」
「噂? どんな?」
「さぁ。興味ねーもん」
「適当かよ」
なんともざっくばらんな答えに、彼は思わず苦笑いを浮かべた。対する友人は気にした風もなく、そんなことより今日の飲み会遅れんなよ、と笑ってから帰っていった。
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