みどりのめのかいぶつ

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 その背を見送ってから、彼は一度、元々座っていた席まで戻った。慌てていたせいで、机上に物を広げたままだったのだ。  散らかっているそれらを鞄にしまう最中、彼の頭の中にあったのは飲み会のことではなく、先ほどの男――(みぎわ)のことだった。  関わらない方がいい、と友人には言われたが、なんだかやけに気になるのだ。  見た目が地味で笑顔のひとつもなく、話を振っても欠片も愛想がないなど、(みぎわ)には好印象を抱くような要素などない。だが、不思議と心のどこか、端っこあたりに引っかかって取れないような感覚を、彼は覚えた。似た感覚を探すと、喉に刺さった魚の細い骨のよう、というのが近いか。  そこでふと、彼の脳裏を、友人の言った“変な噂”という言葉が過ぎった。だが、すぐにそれを打ち消す。一定の閉鎖環境である大学内で走る噂など、どれだけ尾鰭胸鰭が付いて、大元とは別の物に成り果てているか判ったものではない。  結局のところ、百聞は一見に如かずなのだ。ならば、自分の目で確認するのが一番だろう。  そんなことを考えた彼の瞼の裏で、ふと緑の輝きが閃いたような気がした。
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