みどりのめのかいぶつ

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 あの一件以降、(みぎわ)を気にかけるようになって判ったことは、(みぎわ)という男は孤独であるということだった。  誰とも関わろうとしない姿勢は孤高と取れることもあるのだろうが、(みぎわ)に関して言えば、孤高と言うよりも孤独だと評する方がぴったりだと彼は思った。  彼と(みぎわ)が被って取っている講義はひとつだけだったが、その講義では必ず、(みぎわ)は一番後ろの右端の席に座る。そして毎回毎回、講義が始まる直前にやって来て、講義が終わると同時にさっさと退室してしまうのだ。彼が(みぎわ)のことを認識していなかった原因は、主にそこにあったらしい。  初めて(みぎわ)を認識して以降、彼は積極的に(みぎわ)に関わるように努めた。近くに座ることから始まり、声をかけたり、構内でその姿を探したりした。  だが、反応の程は芳しくない。初対面の時点で愛想がないことは判っていたが、それにしても酷いのだ。反応があるだけマシな方で、彼が(みぎわ)と二度目の邂逅を果たしたときなど、至近距離でにこやかに声をかけたというのに見事に無視された。まだ講義は始まっていなかったし、あの距離ならば絶対に声は聞こえていたはずなのに、である。  その後、講義中に何度かメモ書きで会話を試みたりもしたのだが、やはり全て無視された挙句、講義が終わった直後も、彼が話しかける間もなく(みぎわ)はさっさと帰ってしまった。  流石に酷いなと思った彼だったが、いっそ清々しいまでの拒絶が逆に心に火を点けたので、(みぎわ)からすれば対応を間違えたと言ったところだろうか。  そんなこんなでこのひと月ほど、彼は(みぎわ)へ様々なアピールを続けてきたのだが、残念ながらまともな反応は未だに得られない。  それでも一応、認識はされ始めているようで、顔を合わせることができると、一瞬またコイツか、という顔をされるようにはなった。それ以上の何かはないが、僅かにリアクションが返ってくるだけ、進展と言えないこともないのかもしれない、と彼は思った。  そんな風に前向きな考えでいるからか、いまのところ彼には諦めるという発想はなかった。
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