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気になって確かめたという割に、友人の話はふわふわとした確証もない内容で、信ぴょう性が薄いと思ったのだ。だが、そんな彼の反応を気にすることなく、友人が話を続ける。
「あと、一ヶ月くらい前だったっけか。大学から一斉メール来たことあっただろ? ここらで殺人事件が起きてるから外出には気をつけろっての」
「あー、あったな」
「その事件、まだ落ち着いてないみたいなんだけど、それにもあいつが関わってるとか」
「いやいやいや」
あまりにも突飛な話に、彼は思わず待て待てと静止を入れた。先の噂も大概だが、今のはもっと酷い。
「流石にそこまで行くと、風評被害って言った方が良いだろ」
「まぁ、事件どうこうは確かになんとも言いがたいけど、火のないところに煙は立たないとも言うだろ? あそこまで人と関わらないでいるのにこんな噂流されるくらいなんだから、なんかはあるんだよ絶対。だから忠告してんの」
「忠告ねぇ」
友人は本気で言っているようだが、忠告って言われてもなぁ、と彼は思った。そして同時に、汀に対して少しだけ同情する。
あの壊滅的な愛想のなさを考えれば、少しは自業自得な部分もあるのだろうが、そんなことでいちいち殺人事件と結び付けられてしまうなど、たまったものではないだろう。
そんなことを考えている彼に、忠告はしたからな、と友人は念を押してから、次の講義に向かっていった。
賑やかしい男だな、などと思いつつその背を見送り、彼もまた自分の講義に向かうことにする。
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