プロローグ

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プロローグ

篠突く雨はあまりに重たく、顔も上げられない程だった。 息が苦しい。目の前が見えない。 どうして自分の体を動かしていられるのか分からないまま、もうずっと歩き続けていた。 とっくの昔に放棄されてしまった道なのか、そこかしこに凹凸があった。ごろごろと角張った石も転がっている。 あちこちに、土が混じった濁った水が溜まっていた。 がん、と。 殴りつけるような雷の音が頭上でした。 一瞬雨の音が遠くなり、自分の荒い呼吸音が聞こえた。 「……っ」 何かに足がとられた。 受け身を取る間も無く正面から地面に倒れた。 どちゃ。 泥の中に体が落ちる。 もう起き上がる力は無かった。 雨粒は相変わらず重たく体を突いてくる。 いつかの戦場を思い出した。 あの時空から降ってきたのは雨ではなく、銃弾と爆弾とその他諸々の凶器だったけど。 異様に寒くなってきた。体が勝手に情けなく震える。 俺はここで死ぬのだろう。 「椿……」 口から出てきたのは、あの時から片時も忘れたことのない、大事な名前だった。 1度呼んだらもうそれしか縋るものがなくなって、何度も何度も呼んだ。 ざらざらとした泥水が口の中に入ってくる。 吐き出す気力がないまま、何も見えなくなった。 雨の音がいつまでも続いていた。
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