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仄暗い家の中に大勢の男が集まっていた。
部屋の隅に置かれた行燈の中で火が揺れている。安い油の匂いが隙間風に乗って漂っていた。
男達の顔がぼんやりと不気味に浮かび上がっている。
「それでは、あの男をこの村に置くと言うのですか!」
壮年の男が嘆くと、上座の少女ーー泉桜は頷いた。
「そうです」
「どうして」
受け入れられない、危険すぎる。あちこちから上がる言葉はどれも泉桜を説得するような、嗜めるような響きすらあった。
しかし、泉桜は表情1つ変えず、淡々と告げた。
「彼は確かに元少年兵ですが、今は行く当てのないただの流浪人です。そういう人を保護するのも私の役目です」
「ですが!今や各地で鬼の子の被害が相次いでいます。あいつだって何をしでかすか!」
そうだそうだ、と同調する人々を前に泉桜は目を閉じた。
皆不信感を抱いているのだ。どうすれば伝わるだろうか。
彼が無為に人を傷つけたりはしないのだと。
この村はゲリラ兵に襲われた過去を持っている。
味方である筈の日本兵だったこともあり、軍人に対しては猜疑心や敵対心が強かった。
ましてや世間を騒がせる少年兵。
どうしたものか、と言葉を選びつつ口を開いた時、反対する声を十和の声が貫いた。
「俺は良いと思う」
しん、と家の中が静まり返った。
「何言ってるんだよ」
戸惑う声の中十和は立ち上がり、前へ進み出た。
思ってもみなかった援護に泉桜は絶句した。
佑真を村に入れる時、1番反対していたのは彼だったのだ。
「俺は前にあいつと2人で山を登って御姫様の櫓に案内したことがある。その時に少しだけ話したが、あいつはこの村を襲ったゲリラとは違うと思った。ちゃんと話が通じる奴だと」
御姫様、というのはこの村での泉桜の呼び名だ。
「どうしてそう思う」
1番出入り口に近い場所に座っていた男が立ち上がった。苛立ちを隠しもせず、刺々しい声音で十和を糾弾する。
「無断で御姫様と人気のない場所で会わせるとは。御姫様に何かあったらどうする」
「約束したんだ。御姫様を絶対に傷つけない、と」
そんな約束をしていたのか、と泉桜は痺れた頭でようやく理解した。
「そんな約束意味があるか!」
あいつらは我々とは違う生き物だ!
吐き捨てた男に、十和は厳しい口調で立ち向かった。
「あいつは約束を守った!現に御姫様は無事に戻ってきて、こうしてここにいる」
あれから3日が経ったが泉桜は特に何もされていない。
立ち尽くす男は十和の必死な訴えに少しだけ怯んでいた。
十和は元来、とても穏やかな青年だ。こうして大きな声を出して、誰かに意見するのは珍しいことだった。
他の村人も水を打ったように静まり返っていた。
そこへ場違いな程のんびりとした、拍手の音が響き渡った。
音の主は男達の中心に座った老爺であった。白髪と同じ色をした髭が老爺の姿を白く浮き上がらせている。シワだらけの細い手を叩きながら目を細めていた。
「いやはや、こんな立派な若者がいたとは。この村も安泰じゃなぁ」
深みのある低い嗄れた声だ。
「おやっさん」
立ったままの男に呼ばれて老爺はゆっくりと立ち上がった。右足が悪い為、よたよたと危なっかしい。慌てて左右にいた者が支えた。
皆自然と背筋が伸びた。
老爺はかかと笑った。
「儂とて元軍人じゃ。それでもこうして皆のお陰でほのぼの暮らさせてもろとる」
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