砂敷村

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「ねぇねぇ。この人だぁれ?」 子供の1人が丸い無垢な目を佑真に向けた。 何故かぎくりとしてしまった佑真に、他の子供達から好奇心一杯の視線が浴びせられる。 無機質で生気が感じられない佑真は、端正な顔立ちも合わさって人形のようだ。 不気味でもあったが、何よりもその大きな人形が動いているということに子供達は興味津々だった。 「この村に住むことになったの」 泉桜が言うと、子供達は大人達から聞き齧った噂話をそのまま佑真にぶつけた。 「ぐんじんなの?」 「おになのー?」 「皆!」 ぴしゃりと泉桜が遮った。 「初めて会う人でしょう」 しん、と子供達は口を閉ざした。 意味もなく佑真まで固まってしまう。 呑気な小鳥の鳴き声が気まずい空気の中を横切って行った。 やがて。 はぁい、と子供達は降参した。 そして疎らに、はじめましてと佑真に頭を下げたのだった。 「ご挨拶は大事ですよ」 腰に手を当てた泉桜は子供達が反省しているのを見ると、ころりと笑った。 「さ!お外に出ましょう。今日も勉強しますよ」 その瞬間今まで佑真に向いていた好奇心は何処へやら、子供達はさんざめきながら外へ出て行った。 黙って後ろ姿を目で追う佑真を、戸口に立った泉桜が振り返った。 「ごめんなさいね」 悪気がある訳ではないのよ、と。 悪気が無ければ何でもして良い訳ではないが、まだ子供達は分別を身に付ける途中なのだ。 「何がだ」 ただ事実を言われただけなのだ。何も気にはならない。 ありがとう、と泉桜は困ったように笑った。 「佑真くんは字が読めたり計算が出来たりするの?」 「ある程度」 軍の機関では少年兵達に基礎的な学びの場を与えていた。ある程度の知識がなければ、軍の風紀や、作戦の実行に問題が生じる可能性があったからだ。 「さすがね」 それなら助かるわ、と泉桜は佑真へ手を差し伸べる。 「これからお勉強会なのよ」 逆らう理由もなかった為、佑真は大人しくその手をとって外に出た。 村人達が農作業をしている間に、6歳から12歳の子供達を集めて、簡単な計算や読み書きを教えているのだ。 学校なんてないから、青空の下、地面に文字を書いては消してを繰り返す。 はしゃぐ子を年上の子がなだめながら、学びの時間は恙無く過ぎて行った。 お昼時になると、料理を習っていた女子達が昼ごはんを持ってきた。今日のお昼は川魚の煮付けだ。甘いタレの香りが空腹感を煽った。 取り合うようにして食べ始めた子供達の間を縫って、女の子がやって来た。 「はい、御姫様」 泉桜に魚を持ってきたらしい。両手に1枚ずつお皿を持っていた。 女の子は恐る恐るといったように、佑真へも皿を差し出した。 「いいのか」 「うん!」 必死に頷いた女の子から、佑真は皿を受け取った。 女の子は逃げるように他の女の子達の輪の中に戻って行った。
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