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佑真は水底を覗き込んで、1度ゆっくりと瞬いた。
「これは……」
「水草よ」
水の中で柔らかそうな緑色の葉が、ゆらゆらと揺れている。
「変よね。川の何処にも生えていないのに」
泉桜はひっそりと笑った。
しかもこの水草は、水質の変化に殊更敏感で、綺麗なところでしか生息出来ないはずなのだ。
この山で唯一自発的に生きている植物が、まさかこんなにもか弱いものだなんて。
しかしこれを見た時、泉桜は確信したのだ。
この山は、まだ死に絶えてしまった訳ではない。生きようとしているのだ、と。
それを裏付けるように、山には鳥や小動物、虫がいた。
見つけられていないだけで、餌や住処となるようなものがこの山にはあるのだ。
それが希望になった。
だから泉桜は、今日もめげることなく、木を植え、育てている。
ふと横を見ると、佑真が針でも飲み込んでしまったような顔で水底を覗き込んでいた。
消えてしまいそうな程現実味のない彼が、この時やっと存在を得たような気がして泉桜は胸が痛んだ。
何が佑真をこんなふうにしているのかは分からないが、これが佑真を人たらしめているものなのだと、泉桜は分かってしまった。
いつかこれは、佑真を壊してしまうのではないか。
どうか彼にとっての水草が見つかりますように、と。
泉桜はひたすらに祈り続けた。
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