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戦争終了後、軍の解散と共に彼らは野へ放たれた。しかし生きていく術を闘うことと人を殺すことしか知らない彼らは、世間に順応出来ずにいる。
長きに渡る戦争で町は殆どが破壊され、生き残った民間人は隠れるように村や集落を作って細々と暮らしていた。
元少年兵達は食料の略奪などを目的に、次々とそんな場所を襲撃していた。
そんな彼らを人々は鬼の子と呼んでいる。
ほとんど機能していない国家機関は当然これに対応できない。最近駐留を始めたアメリカ兵も手を拱いている。
しかし少女には確信があった。
彼らは鬼などではない。
何故ならばーー。
少女は客人の横に置かれた軍刀に視線を移した。
よく使い込まれたと見えるそれは、今は静かに客人に寄り添って眠っている。
柄は椿の紋様が彫られていた。
客人はよく魘されて、誰かの名前を呼んでいる。
椿、椿、と。
大切な誰かなのではなかろうか。
雨上がり、村外れで発見された客人は、全く意識がない状態だった。
しかしこの軍刀だけは、やけにしっかりと抱きかかえていた。
* *
それからも客人はよく眠った。
時々起きては出汁のスープや重湯を啜った。
ぼおっとした様子の客人は、それでも少しずつ固形物を嚥下し、自分で体が起こせるようになっていった。
客人がはっきりと意識を取り戻したのは、1週間後のことだった。
目を覚ますとあの時とは違い、部屋の中は真っ暗だった。
冷たくて寂しい隙間風が、部屋の中に忍び込んできていた。
あの少女の姿は何処にもない。
体を起こした客人は右肩に違和感を覚えて寝巻きを脱いだ。
包帯が巻かれていた。妙に突っ張る感じがする。
どんな怪我を負ったのか気になったが、包帯を巻き直すのが面倒でまた寝巻きを着直した。
扉についた格子窓から小さく夜空が見えた。散りばめられた星々の姿も。
うっすらと差し込む月明かりが、宵闇を白く照らしていた。
客人は傍らにあった軍刀を片手に立ち上がり、玄関に並べられた軍靴を履いて、その扉を開けた。
外には最初に槍を突きつけてきた男が立っていた。
家主に十和と呼ばれていたな、と客人は思い出す。
今日も槍を構え、いきなり空いた扉から距離をとっていた。
「お前か」
警戒するように睨みつけてくる十和を客人は無視して辺りを見渡した。
「あの子は?」
「あの子?」
客人の問いを繰り返した十和はすぐに合点がいったようだった。
「泉桜のことか」
「みお?」
それが少女の名前だったのか、と客人は1人で納得して頷いた。
「その、泉桜と会いたい」
何を言ってるんだ、と言わんばかりの顔をした十和は、益々警戒心を強めているようだった。
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