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はじまり
「いいか、紗都子。努力した人は報われる。だから、しっかり勉強したら、沙都子のやりたいことができるようになるし、なりたいものになれるんだよ。」
あれは入学式の日だった。式が終わって、帰る途中のことだった。
お父さんの言葉が、私の頭の中で反芻する。
「勉強したら、なりたいものになれるの?」
私は買ってもらったばかりのピンク色のランドセルに詰め込んだ教科書に体を持っていかれそうになりながら、背の高いお父さんを見上げた。
「そうだぞ。だから、辛くても、しっかり努力すれば、良いことが待ってるんだ。」
「ふーん。じゃあさとこ、勉強頑張るね!」
私は笑顔で、背の高いお父さんを見上げた。
「沙都子は良い子だな」
そう言ってお父さんの大きな手が、私の髪を黄色い帽子の上から撫でた。
桜の花びらが風に吹かれて、踊るように空を舞った。私は必死に小さい手でそれを掴もうと必死になってたっけ。
なりたいものなんてまだなかった。
お父さんが笑ってくれたらそれでよかった。
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